(株)大洋不動産

相続マインズ福岡

小峰 裕子

平成元年より不動産業に従事。不動産におけるすべての判断はオーナーご家族の幸せや将来設計に多大な影響を及ぼすことを実感する。1999年にCFP®資格取得、2000年にNPO法人相続アドバイザー協議会養成講座1期生として研修を受け、相続に強い不動産の専門家として不動産管理運営の相談業務を中心に、セミナー講師や不動産相続のサポート業務を行っている。
大洋不動産常務取締役・相続マインズ福岡代表
CFP®(1級ファイナンシャルプラン技能士)
CPM®(米国公認不動産経営管理士)

この執筆者の過去のコラム一覧

2017/08/10

管理会社を複数入れてはいけない理由

賃貸用不動産の管理を、数社に依頼しているオーナー様も多いと思います。大手の管理会社から数人規模の管理会社まで、それぞれに良さがあり使い分けるのもひとつの運営手法です。ただ、1棟の建物に2以上の管理会社を混在させることは絶対避けたほうが良いです。なぜでしょうか。

空室が目立ち始めた自主管理のアパート

Aさん(70代・男性)は、所有する賃貸アパートをご自分で管理していました。
入居者との関係も良好で、奥様がアパートの掃除をするなど経営は順調に思えました。ところが、ほどなくして空室が目立ち始めるようになり、とうとう3戸が1年以上空室という状態です。
入居者の募集は賃貸客付け仲介を専門とする数社に依頼していました。

困ったAさんは、その仲介会社のひとつに相談に行きました。すると「管理を任せてもらえませんか」という提案を受けたのです。
管理委託手数料は5%です。家賃は4万円でしたから2000円は少し惜しい気もしたそうです。
ただ「入居者は管理物件を優先して付けている」という言葉に納得し、入居が決まった部屋から管理を依頼することにしました。そして他の会社も平等にと考えたAさんは、同じように入居が決まった部屋から管理を依頼することを条件に、募集をお願いして回りました。

入居が決まった部屋から管理を依頼してみたら

こうして3ヶ月も待たずに、3戸の空室はすべて申し込みが入りました。
確かにオーナー自ら管理する「自主管理物件」は、管理物件と比較して募集が後回しになりがちです。管理させる効果を実感したAさんは、その後も退去の度に入居後の管理を依頼するようになりました。
その結果、2戸をB社、他1戸ずつをC社、D社、E社の合計4社が管理し、残り3戸はAさんが引き続き自主管理という状態になりました。Aさんご夫婦が初めてご相談に来られたのは、新たに2戸退去することがわかった直後のことでした。
聞くとお悩みは募集ではなく、管理のことだったのです。

最初の問題は自転車置き場でした。
持ち主がはっきりしない自転車が放置されるようになったのです。4社に連絡を取ってみたところ、答えは4社とも「管理する部屋の入居者のものかどうかわからない」というものでした。
次はゴミ置き場でした。ゴミ出し日や分別方法を守らない人がいたため、やはり管理会社に連絡してみましたが4社とも返ってくるのは同じ答えだったそうです。
困ったのはAさんです。ゴミを分別して指定日に出し直したり、誰のゴミか突き止めようと中身を広げてみたりしたそうです。他にも、何かある度にすべての管理会社と連絡を取り合うのですが満足のいく対応はしてもらえなかったとのこと。
入居者募集の時に、複数の客付け会社の募集シートがベタベタと貼られてしまうのも気になっている様子でした。

管理会社は1棟にひとつ

もうおわかりですよね。
管理会社は1棟にひとつです。
共用部分に関することは、その責任の範疇でしか対応できないのです。他の会社に1戸でも管理を任せたら、見方次第では責任逃れの理由を与えるだけです。実際、管理する部屋の入居者が原因なのかどうか、証拠でもない限りわかりません。
管理会社は、管理外のお部屋については何も情報を持っていません。消防点検時の立ち入り、貯水槽の点検時の断水、大規模修繕に至るまで、管理外のお部屋については「ほぼ何もできない」のが実情です。

「管理会社をひとつに絞るだけで、行き届くようになりますよ。手間もなくなります」。そうアドバイスすると、ご夫婦とも安心したご様子でした。本来、管理会社は100%あなたの味方、良識あるパートナーです。「管理手法はどこも同じ」ではありませんが、かといって「複数に依頼して競わせる」というものでもありません。Aさんはこうして、自主管理のお部屋も含めて1社に管理を任せることにしたのでした。

 

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