江口 正夫

弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2018/04/10

遺言の内容と違う遺産分割は行ってもよいか?

Q 父が亡くなり、父の遺品を整理していた際に遺言書を見つけました。
遺言書には、長男に自宅建物を相続させると書いてありました。しかし、この遺言は15年以上前に作成されたもので、確かに15年前は長男が両親と同居していたのですが、その後長男が海外勤務となり、それ以降は10年以上にわたり次男が自宅で両親の面倒を見ています。
遺言書では長男に自宅建物を相続させるとなっていますが、現在の状況では、自宅で年老いた母親の面倒を見るなど、色々な条件を検討した結果、次男がよいということになりました。

長男を含めた家族の意思は、母親の面倒を見る次男に自宅建物を相続させたいということなのですが、父親の遺言に反してしまいます。
遺言は死亡と同時に法的効力が生じていると聞きましたが、相続人は遺言に従うしかないのでしょうか。

1 遺言の効力

民法は、「遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。」(民法第985条1項)と規定しています。
そして、最高裁判所は、「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。」との判断を示しています(最判平成3 年4月19日)。

従って、本件遺言は、特定の遺産(自宅建物)を特定の相続人(長男)に相続させる旨の遺言ですから、自宅建物の所有権は、被相続人である御父様の死亡と同時に長男に移転していることになります。
それでは遺言と異なる遺産分割をすることは認められていないのでしょうか。
これについては、相続の放棄や遺贈の放棄が明文で認められており、遺言執行者がいない場合は、相続分や遺産分割の方法についても遺言により利益を受ける者をはじめとする相続人全員が遺産分割を望むならば、これを否定する理由はないと解されています。

よって、相続人全員の意思であれば、遺言と違って自宅建物を次男が相続する遺産分割協議を行うことが可能です。

2 遺言執行者がいる場合

これに対し、遺言執行者が存在する場合は、簡単にはいきません。
民法は「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」(民法第1013条)と定めているからです。それでは、この場合には、遺言に従うしかないのでしょうか。

まず、遺言にA氏を遺言執行者に指定すると記載されていても、被相続人の死亡と同時にA氏が遺言執行者に就任するわけではありません。
指定されたA氏は遺言執行者に就任することを拒否することもできます。
そこで、遺言を検討した御遺族が全員一致で遺言と異なる遺産分割を希望する場合は、A氏が遺言執行者に就任する前であれば、A氏に遺族全員の意向を伝えて、遺言執行者を承諾しないように頼むことが考えられます。

A氏が就任しなければ、遺言執行者がない場合に該当しますので、遺言と異なる遺産分割協議を行うことが可能です。

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