ツアーディレクター(添乗員)

ツーリストエキスパーツ

寺田 多実子

1961年生まれの博多っ子1987年より近畿日本ツーリストの国内・海外旅行のツアーディレクターとして世界中を飛び回る。渡航歴は400回を超え、訪れた国は約70ヶ国。目指しているのは、他を喜ばせる人になること。趣味は描画と写真撮影で「どこでもスマイル」と「とっておき」の二冊の写真集を自費出版した。還暦を機にシニアのチアダンスと好きな曲をピアノで弾くことに挑戦中。地元でタレントもしている。好きな言葉は創意工夫と笑顔は世界の共通語。

この執筆者の過去のコラム一覧

2021/09/10

静かな日々の中にも思いがけない出会いがある猫耳フレディの尺取り物語 

STAY HOMEがもたらした出会い

2020年はSTAY HOMEのおかげで、35年間の添乗生活で最も長く自宅で過ごすことができ、ベランダでガーデニングを楽しみました。
7月初旬の、ある日のことでございます。私がいつものように草花に水やりをしていると、ふと目が止まりました。ブルーベリーの木の不思議な所に枝がついているのです。(図①)

そういうこともあるだろうと気にせず翌朝、再び同じ所を見ると…今日は枝が無い!他の場所を探すと、全く別の所に移動していました。(図②)

 

私は「思い違いかもしれない」と気を落ち着かせ、もう一日待つことにしました。そして翌朝、ドキドキしながら見ると…
あああ~!今度はもっと離れた所に移動しているではありませんか!これはもう生物に違いない!と確信し、その形態から何者なのかを検索すると、尺取り虫であることが判明しました。
正式名称は【猫耳トビモンオオエダシャク】
可愛らしい猫耳がついているトビモンオオエダシャクという体長7センチほどの蛾の幼虫です。

そして命名

それにしても見事な擬態(生物が周囲の生物以外のものに似た色彩、形、姿勢をもつこと)。鳥に食べられぬよう枝になりきって隠れているのです。
でも、私に見つかった。最近、この木の周りに丸薬みたいな丸い粒がたくさん転がっているので何だろうと思っていたところ、それは糞で敵に居場所を知られぬように自分の糞を遠くに飛ばすらしいのです。生きてゆく知恵ですね。

私は初めて出会ったこの生物が愛おしくなり観察することにしました。
せっかくだから名前をつけようと友人と協議した結果「フレディ」と命名。観察日記のタイトル名を“猫耳フレディの尺取り物語”としました。

いきものがかり

我が家は13階にあり、高さ1.5メートルのブルーベリーの木は2年前に買ったものです。
この幼虫、いつ、どこから、どうやってここに来たのか不明。これから成長して蛹(サナギ)になり越冬し、春に羽化するそうです。
ならば成虫になったフレディを見届けたいという親心が私の中に芽生え、毎日のように目を凝らして観察し続けました。

昼間は枝になりきりジッとしていますが、夜になり暗くなると活発に動き回って葉っぱをムシャムシャと食べるのです。人が親指と人差し指で尺を取るような進み方をするので尺取り虫と言うのですが、そのクネクネと動く様子は見ていて飽きない。
こんな毎日を送れるのもSTAY HOMEだからこそ、と嬉しく思いました。

自然の驚異に耐えつつ越冬へ

セミの鳴き声も少しずつ聞こえなくなる夏の終わり、2020年は次から次に台風が来て、中でも一番強かったのが台風9号でした。窓ガラスに養生テープを貼って対策をしたことは記憶に新しいと思います。
台風の影響で、ブルーベリーの木も大きく揺れていたのでフレディが気になり窓越しに見たところ、強い雨風にさらされながらもシッカリと枝にしがみつき、ジッと嵐が通り過ぎるのを待つ様子に心を打たれました。


夜が明けて真っ先に彼の安否確認をすると、姿がどこにも見当たりません。
大変だ!大変だ!強風で飛ばされたのか、一体どこに行ったのか?と捜していると…
ベランダの排水口から排水管に潜ろうとしているのを発見!
危機一髪のところを割り箸で(ごめんよフレディ、私は素手であなたを触れないの)嫌がるフレディをつかみあげ鉢に戻したところ、30分ほどかけて土の中に潜ってしまいました。

そうかぁ~どこかに潜って越冬する準備がしたかったのね。2020年9月4日、猫耳フレディは冬眠に入りました。
これからサナギ、そして成虫になって飛び立つまで、まだまだ先は長いです。

よい旅を!

2021年新しい年が明けました。
2月に入り私は還暦を迎え、ありがたくも祝っていただきました。
お祝い気分も一段落した2月25日、ベランダに一匹の大きな蛾がとまっているのを見つけ、「もしかしたら…」とブルーベリーの土を見ると、フレディが抜け出した穴がスッポリと空いているではありませんか!

「フレディ、ついにあなたは成虫になって出てきたのね!」
立派な羽が朝日を浴びて輝いている姿を見ると、胸に熱いものがこみあげて来ました。
出会いから約8か月、小さな命の尊さに、ただただ感動するばかりです。
その夜フレディは私が寝ている間に新しい世界へ飛び立って行きました。

Bon Voyage!(よい旅を!) ありがとう、フレディ。
生きとし生けるものの生命力、神様の創ったプログラムには、かなわないなぁ。

追伸
東京2020オリンピック・パラリンピックを見て、皆さんはどう感じましたか?
私は「挑むうつくしさ」に感銘を受けました。

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