2024/12/10
窓からの闖入者
プロレスのスタートは「メキシコから」
メキシコで修業していた27歳のころ。
オレは、メキシコシティにアパートを借りていた。
5階建ての3階の部屋。
家賃が邦貨にして2万4千円だったか。
前の人が残していったベッドとソファーが備え付けられており、管理人のおばちゃんも1 階に住んでいたので何かめんどくさいことが起きたら即対応してくれる。
道路に面した壁側は膝から上の高さが全面ガラス張りとなっており、陽当たりはいいし眺めもいい。
空気が薄い土地なので3 階までの階段を昇るのが少々しんどかったが、割と掘り出し物な物件ではあった。
こないだ帰国したジョージ・コーカス選手。
2mのシリア難民レスラーが、一般的日本家屋に住むとこうなります。
「メキシコ」の、とある日
で、ある日の夕方。
何かの理由ですべての窓を全開にしていた。
道を挟んだ向かいのアパートの同じ高さに、いつものじいさんの顔が見えている。
じいさんは一日中何をするでもなく、窓からそとを眺めているのだ。
そういう人がメキシコにはけっこういる。
住み始めた当初はいやな感じがしたものだが、そのころにはすっかり慣れて気にもならなくなっていた。
じいさんの視線がある中、窓を全開にした部屋でオレは何をしていたのだったか。
そのときである。
部屋の天井で、黒い何かが騒々しく動いている気配を感じたのは。
そいつ”ら”の正体
それは、真っ黒い巨大な蛾だった。
不規則な軌道で舞い狂うと、天井にぶつかり壁にぶつかり。
そのつど落下しかけては、再び舞い狂い復活している。
オレがこの世でいちばん怖いもの。
それは蛾なのだ。
下あごが胸にくっつく悲鳴を上げた。
いつの間に入ってきたのだろう。
とにかく追い出して……近よれないよ!
隣の台所へ避難した。
そのうち勝手に出ていくかもしれない。
しかしこれがいつまでも出ていかないのだ。
どうしよう?
ふと、モップが目についた。
棒の先に紙を巻いて火をつけ、それで退治してしまおう。
そう決意した。
だが、紙の燃焼時間は短い。
しかも燃えカスが落ち始める前には台所へ戻り消火しなくてはならないので、勝負は短期決戦。
紙を固く巻き付け、火をつけた。
隣の部屋へ飛び出す。
しかし……蛾に届く距離へ到達する前に、ほぼ燃え尽きてしまいそうだった。
床に落ちたらヤバい!
決死の覚悟もむなしく、たった2歩半で台所へ引き返す。
火に流しの水をかけると、ジュッ!と爽快な音がした。
蛾はまだ出ていかない。
管理人のおばちゃんに何とかしてもらう以外になかった。
「どうしたんだい?」
「蛾は怖くないですか?」
おばちゃんを盾にするようにピタリ後ろにくっつき部屋へ戻ると、蛾はまだいた。
するとおばちゃん、そこに何もいないかのように蛾に近づくと、まるで宙を舞う油揚げでも箸先でつまむようにヒョイ!とつかむや、そのまま窓のそとに放り捨ててしまったのである。
ほんの一瞬の出来事であった。
「あんたレスラーのくせにだらしないんだねえ、ヒッヒッヒ!」
余裕で部屋へ戻っていくおばちゃん。
ふと、窓のそとを見ると、すべての目撃者となったであろうじいさんの視線が、いつもと変わらずこっちを向いているのであった。
九州プロレス道場で練習の日。
日本、台湾、イギリス、フィンランド、フランス。
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待ってます(^ ^)
プロレスのスタートは「メキシコから」
メキシコで修業していた27歳のころ。
オレは、メキシコシティにアパートを借りていた。
5階建ての3階の部屋。
家賃が邦貨にして2万4千円だったか。
前の人が残していったベッドとソファーが備え付けられており、管理人のおばちゃんも1 階に住んでいたので何かめんどくさいことが起きたら即対応してくれる。
道路に面した壁側は膝から上の高さが全面ガラス張りとなっており、陽当たりはいいし眺めもいい。
空気が薄い土地なので3 階までの階段を昇るのが少々しんどかったが、割と掘り出し物な物件ではあった。
こないだ帰国したジョージ・コーカス選手。
2mのシリア難民レスラーが、一般的日本家屋に住むとこうなります。
「メキシコ」の、とある日
で、ある日の夕方。
何かの理由ですべての窓を全開にしていた。
道を挟んだ向かいのアパートの同じ高さに、いつものじいさんの顔が見えている。
じいさんは一日中何をするでもなく、窓からそとを眺めているのだ。
そういう人がメキシコにはけっこういる。
住み始めた当初はいやな感じがしたものだが、そのころにはすっかり慣れて気にもならなくなっていた。
じいさんの視線がある中、窓を全開にした部屋でオレは何をしていたのだったか。
そのときである。
部屋の天井で、黒い何かが騒々しく動いている気配を感じたのは。
そいつ”ら”の正体
それは、真っ黒い巨大な蛾だった。
不規則な軌道で舞い狂うと、天井にぶつかり壁にぶつかり。
そのつど落下しかけては、再び舞い狂い復活している。
オレがこの世でいちばん怖いもの。
それは蛾なのだ。
下あごが胸にくっつく悲鳴を上げた。
いつの間に入ってきたのだろう。
とにかく追い出して……近よれないよ!
隣の台所へ避難した。
そのうち勝手に出ていくかもしれない。
しかしこれがいつまでも出ていかないのだ。
どうしよう?
ふと、モップが目についた。
棒の先に紙を巻いて火をつけ、それで退治してしまおう。
そう決意した。
だが、紙の燃焼時間は短い。
しかも燃えカスが落ち始める前には台所へ戻り消火しなくてはならないので、勝負は短期決戦。
紙を固く巻き付け、火をつけた。
隣の部屋へ飛び出す。
しかし……蛾に届く距離へ到達する前に、ほぼ燃え尽きてしまいそうだった。
床に落ちたらヤバい!
決死の覚悟もむなしく、たった2歩半で台所へ引き返す。
火に流しの水をかけると、ジュッ!と爽快な音がした。
蛾はまだ出ていかない。
管理人のおばちゃんに何とかしてもらう以外になかった。
「どうしたんだい?」
「蛾は怖くないですか?」
おばちゃんを盾にするようにピタリ後ろにくっつき部屋へ戻ると、蛾はまだいた。
するとおばちゃん、そこに何もいないかのように蛾に近づくと、まるで宙を舞う油揚げでも箸先でつまむようにヒョイ!とつかむや、そのまま窓のそとに放り捨ててしまったのである。
ほんの一瞬の出来事であった。
「あんたレスラーのくせにだらしないんだねえ、ヒッヒッヒ!」
余裕で部屋へ戻っていくおばちゃん。
ふと、窓のそとを見ると、すべての目撃者となったであろうじいさんの視線が、いつもと変わらずこっちを向いているのであった。
九州プロレス道場で練習の日。
日本、台湾、イギリス、フィンランド、フランス。
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