弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2022/10/10

養子の子の代襲相続権

Q 私の両親は、私が1歳のときに、夫を亡くして一人暮らしとなった遠い親戚である女性と夫婦で養子縁組を致しました。
養子縁組から1年後には妹が生まれ、祖母と養子である両親と私と妹の5人で祖母名義の自宅の土地建物で暮らしておりました。
その後、両親が亡くなり、私と妹が祖母の面倒を見ていたのですが、妹が交通事故で亡くなりました。
その後は、私一人で祖母の生活の面倒を見てきました。

今年、祖母が亡くなり、葬儀や祖母の知人等への挨拶も済ませてほっとしていたのですが、突然、祖母の実弟というX氏から、祖母が亡くなったので、実弟であるX氏が相続人となった。従って、本件土地建物はX氏が相続により所有者となったので、私に土地建物から出て行ってほしいとの通知が届きました。

祖母が亡くなる前に養子である両親が死亡していますので、その子である私は祖母の代襲相続人のはずであり、祖母の弟であるというX氏には土地建物の相続権はないはずだと思うのですが、私には相続権はないのでしょうか。


1 相続人に関する民法の規定

ある方がお亡くなりになった場合に、誰と誰が相続人になるのかは法律で決まっています。
誰と誰が相続人になるかを定めている法律が民法です。民法は、相続人は、配偶者と血族相続人の組み合わせにより決定されるものとしています。

配偶者は常に相続人となりますが、血族相続人には順位があります。
第1順位の血族相続人は、被相続人の子(民法887条1項)、子が被相続人の死亡以前に亡くなっていた場合には孫等の直系卑属が相続人となります(同条2項)。これを代襲相続といいます。第1順位の相続人がいない場合に、第2順位として被相続人の直系尊属(被相続人の親等)が相続人となり(民法889条1項1号)、第2順位の相続人もいない場合に、初めて第3順位として被相続人の兄弟姉妹が相続人となります(同条項2号)。

2 養子の子の代襲相続権

御相談のケースでは、ご両親が祖母の養子になっているということですので、祖母が亡くなった場合にご両親が御存命であれば、ご両親が相続人となります(前掲民法887条1項)。
しかし、ご両親は祖母より前に亡くなっていますので、その子である御相談者が代襲相続人と認められれば、ご相談者が第1順位の相続人ですから、第3順位の相続人である被相続人の実弟X氏には相続権がないことになるはずです。

しかし、代襲相続については、民法第887条2項は「被相続人の子(註:養子縁組をしたご両親)が、相続の開始以前に死亡したとき・・(中略)・・は、その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と規定しているのですが、これに続けて、「ただし、被相続人の直系卑属でない者はこの限りではない。」と定めているのです。

本件では、ご両親は被相続人である祖母の子ですが、御相談者は、両親が祖母と養子縁組をする前に生まれていますので、御相談者は祖母の直系卑属とはならないのです。これに対し、妹さんは、ご両親と祖母との養子縁組の後に生まれていますので、妹さんは祖母の直系卑属です。

従って、妹さんが御存命であれば、妹さんが第1順位の血族相続人となりますので、自宅の土地建物は妹さんが相続することになります。しかし、妹さんも祖母よりも前に死亡していますので、本件では第1順位の相続人はいないことになります。
このため、祖母の実弟X氏が第3順位の相続人として自宅の土地建物の所有権を取得することになるわけです。

3 遺言による対処の必要性

ご相談者は幼少の時からご両親と祖母と一緒に暮らし、ご両親亡き後も自宅で祖母の世話を一人でされてきたと思われますが、法的には相続人ではないことになります。
養子との子と祖父母との関係は、養子の子が養子縁組前に生まれた子か、縁組の後に生まれた子かにより、祖父母の直系血族であるか否かが異なります。

養子縁組前に生まれた子は直系卑属ではないため、祖父母の代襲相続権が認められていませんので、祖父母の方は、遺言で養子縁組前に生まれた子に対する自宅の土地建物を遺贈する等の措置を講じておくことが必要になることに御留意下さい。

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