弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2026/07/10

無償で土地を借りた場合の、借主の死亡と土地利用権の相続

Q 私たち夫婦は、長年にわたり、夫が夫の父親の所有している土地を無償で借り受けて建築した建物に、夫と2人の子の4人家族で暮らしてきました。

その後、義父が亡くなりましたが、土地は夫の兄が相続し、私たちは、そのまま自宅で暮らして参りました。

この度、夫が病で急逝いたしました。
兄は、弟である夫が亡くなったのであれば、この土地から出ていくことを考えてほしいと言っています。

土地を借りる権利は相続が認められると聞いたことがあるのですが、私たち家族は夫の土地を借りる権利の相続は認められていないのでしょうか。

土地の借主である夫が死亡した場合、私たち家族は出ていかなければならないのでしょうか。


1 土地を借りる権利の相続性

借地権は、財産権として、相続性が認められています。
ですから、借地権の場合には、借地人が死亡したとしても、その相続人は借地権を承継することが認められています。
ただし、借地権とは、ただ単に土地を借りる権利ではなく「建物の所有を目的とする地上権または土地賃借権」を指します。
つまり、建物の所有を目的とする地上権や土地賃借権であれば、借地権として、相続性が認められているのです。

ところが、
①建物の所有を目的としない地上権または土地賃借権(駐車場や太陽光パネルの設置の目的)や、
②賃料を支払わないで無償で土地を借りる土地の使用貸借権などは、
土地を借りる権利ではあるのですが、①は建物の所有を目的としていないため、②は地上権や賃借権ではなく使用貸借権であるため、借地権ではありません。
使用貸借契約については、「使用貸借は借主の死亡により終了する。」と規定されています(民法第597条3項)。
借主が死亡した場合は、使用貸借は終了すると規定されていますので、使用貸借には相続性は原則として認められていないことになります。

しかし、この規定をどのような場合にも形式的に適用すると、親子関係にある者の間で、親子の情愛に基づき子が親の土地に建物を建てる目的で使用貸借され、子とその家族が建物に住んでいる場合に、子が亡くなったら,子の妻やその子(親から見れば孫)は建物を取り壊して出ていかなければならないとすると、そのような場合にまで形式的に適用することは、妥当性に疑問があるように思われます。

2 使用貸借と相続に関する裁判例

(1)建物の使用貸借の事案(東京高判平成13年4月18日)

裁判例では、建物の使用貸借についてですが、貸主との間に実親子同然の関係があり、昭和26年以降貸主の建物に貸主夫婦と同居し、昭和45年に借主が結婚した後は、借主とその妻子も同建物で長年にわたり同居を継続した後、貸主は本件建物を出て別の建物で貸主の娘と暮らすようになった後、平成8年に貸主が死亡し、翌年の平成9年に借主が死亡したところ、貸主の相続人6名が借主の妻と子に対し、本件建物の明渡を求めた事案について、第一審裁判所は、相続人らによる建物の明渡請求を認めました。
しかし、控訴審である東京高等裁判所は、「本件のように貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合、貸主と借主の家族との間には、貸主と借主本人との間と同様の特別な人的関係があるというべきであるから、このような場合に民法599条は適用されないものと解するのが相当である。」との判断を示し、ています。

②建物所有を目的とする土地使用貸借の事案(東京地判平成5年8月14日)

建物の所有を目的とする土地の地用貸借契約について、裁判所は「土地に関する使用貸借がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物の所有者の目的が重視されるべきであって特段の事情のない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにはならないというべきである。」との判断を示しています。

他にも名古屋地判平成2年10月31日、東京高判昭和61年5月28日など借主の死亡により建物の明渡請求を否定したものがありますが、事案によっては、東京高判昭和59年11月20日、東京高判昭和61年7月30日など、借主の死亡により使用貸借が終了したとの判断を示した裁判例もありますので、詳細は専門家の意見を確認される必要があると思います。

以 上

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