弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2019/01/10

改正相続法による自筆証書遺言の様式の緩和

 妻と子供達へ遺言を残そうと思っています。

調べてみたところ、費用もかからないし簡便な方法として遺言書の全文を全て手書きで作成する自筆証書遺言というものがあることを知りました。
ただし、その場合は、遺言書の本文だけではなく、遺産目録も全部自分で手書きしなければならないと書いてありました。

私の遺産はそれほど多いわけではありませんが、それでも土地や建物の登記簿の全部事項証明書を取り寄せて目録の形式に書き直すのを全て自筆で行うとなると結構大変な作業です。
銀行の預金通帳や郵便局の貯金の通帳についても、金融機関名や預貯金の種類、口座番号などを全部自筆で内容を書き写したりするのも年をとった身ではかなりの負担です。
有価証券も株式などの目録を全部自筆で作成するのは大変です。もっと、簡単に自筆証書遺言を作成する方法はないのでしょうか。

1 遺言の種類と自筆証書遺言の要件

遺言を残しておくことは、相続人がトラブルなく遺産を引き継ぐ上で大変有益な手段です。
民法では、遺言は厳格な様式行為とされ、法律で定めた遺言の様式を守らない場合には遺言としての効力を生じないとされています。

民法では、特殊な状況のもとでの遺言(例えば船舶遭難者の遺言や、伝染病で隔離されている場合の遺言等)を除けば、普通の方式の遺言の種類としては、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3方式が定められています。
相続の実務では③の秘密証書遺言は1年間に100件強程度しか利用されておらず、自筆証書遺言と公正証書遺言が多く用いられています。

②の公正証書遺言は公証役場の公証人(法律の専門家)に遺言の内容を口授(くじゅ。口頭で公証人に遺言の内容を伝えることをいいます。)する必要があり、証人2人を準備しなければならず、費用もかかります。

①の自筆証書遺言は、全文を自筆で作成し、日付と署名押印さえすれば有効ですので、証人も不要ですし、費用もかからず、全て自分一人で作成できるので大変使い勝手がよいのですが、現行民法第986条では、「その全文、日付及び氏名を自署」することが絶対的な要件とされています。
このため、遺言書本文だけではなく、遺産目録まで全て手書きで作成しなければならないとされています。

2 改正相続法における自筆証書遺言の要件の緩和

平成30年7月6日、民法中の相続法が改正され、自筆証書遺言の遺産目録については自筆でなくともよいとされることになりました。
改正相続法は原則として2019年7月1日から施行されますが、自筆証書遺言の遺産目録は自筆でなくともよいとの改正は2019年1月13日に施行されています。

改正相続法のもとでは、不動産目録や預貯金目録は必ずしも自筆で作成する必要はなく、専門家にパソコンで作成してもらった目録を用いても構いません。
目録を作成するのが面倒であれば、例えば遺産が不動産である場合には、その不動産登記の全部事項証明書を遺言に添付しても構いません。
預貯金の目録を作成するのが大変であれば、預貯金の通帳のコピーを添付するのもOKです。
ただし、改正民法第968条2項では、「遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」と定めていますので、添付する目録の1枚ごとに署名捺印が必要です。

法的には目録に押捺する印鑑は遺言書本文と同一でなくともよいとされていますし、遺言書と遺産目録との間に契印も不要とされています。しかし、遺言の偽造防止の観点からは、目録に押捺する印鑑は遺言書本文と同一とし、遺言書と遺産目録は契印をしておくことが重要だと思われます。

以 上

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