江口 正夫

弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2019/04/10

相続法の改正による遺留分の新しいルール

Q 先日、父が亡くなりました。
母は5年前に亡くなっておりますので、相続人は長男、長女である私と弟である次男の3人の兄弟姉妹です。
父は、元々父名義であった自宅の土地建物と預貯金を12年前に長男に贈与し、長男名義に登記された自宅に居住していましたので、父の遺産としては、父名義の財産は何も残っていない状態でした。

父の気持ちとしては、自宅その他の財産は長男が引き継ぐのが当然と考えていたのかもしれませんが、同じ父の子であるのに、長男だけが父の財産を取得して、私と弟には何も受け取るものがないということは、納得がいきません。
このような場合に、贈与を受けていない相続人を保護してくれる制度はないのでしょうか。
それとも、10年以上も前に贈与され、贈与税も支払われている以上、仕方がないのでしょうか。


1 改正民法による「遺留分減殺請求権」から、「遺留分侵害額請求権」への変更

御父様が御長男に贈与をされた以上、贈与された自宅の土地建物と預貯金は既に御長男の所有物となっています。
死亡の時点で御父様の所有物ではないので、これらは御父様の相続財産ではないことになります。
しかし、だからといって、亡御父様が元々所有していた財産を御長男のみが取得してしまう結果になることは、他の相続人には納得できないことだと思われます。

そこで、民法は、相続人の最低限の取得分として「遺留分」(イリュウブン)を認めています。
遺留分の割合は、直系尊属(被相続人の両親等)のみが相続人の場合は遺産の3分の1、それ以外の場合は遺産の2分の1と定められています。次男と長女の相続分は各自3分の1ですから、次男と長女の遺留分は1/2×1/3=1/6となります。
改正前民法では、遺留分を侵害された相続人(次男と長女)は、遺留分を侵害した相手方(長男)に対し、遺留分に足りるまで、侵害行為(生前贈与)を減殺(ゲンサイ)請求をして、自宅の土地建物と預貯金については遺留分割合でその権利(遺留分割合である各6分の1の持分)を取り戻すことができるものと定めていました。

ところが、民法の相続法が改正され、遺留分を侵害された相続人(次男と長女)は、自宅の所有権や預貯金そのものを取り戻すのではなく、遺留分を侵害した相手方(長男)に対し、遺留分に足りるまでの金銭(自宅の土地建物の6分の1の価額と預貯金の6分の1の金額)を請求できるという、遺留分侵害額の金銭請求ができる権利であると権利の内容を変更し、遺留分減殺請求権から、遺留分侵害額請求権(改正民法第1046条)へと変わることになりました。
この改正は、2019年7月1日から施行されます。

2 遺留分の算定方法の変更

遺留分額の算定は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除してこれを算定する。」(民法1029条1項)と規定されています。
同時に「贈与は、贈与開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。
当事者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。」(民法第1030条)とも規定されています。

ただし、わが国の判例では、共同相続人の一人に対し婚姻、養子縁組のため、若しくは生計の資本としてなされた贈与の場合(これを「特別受益」といいます。)には、1年前か否かを問わず、また、遺留分侵害の意図があったか否かを問わず、遺留分算定基礎財産に算入されると判断されていました(最判昭和51年3月18日)。
しかし、改正民法では、この判例の扱いが変更され、共同相続人に対する贈与は相続開始前10年以内になされたものに限り、遺留分算定基礎財産に算入されることとなりました(改正民法第1044条3項)。

したがって、改正民法が施行される2019年7月1日よりも前の相続の場合には12年前になされた長男への自宅等の贈与は遺留分減殺請求の対象となりますが、改正民法が施行される2019年7月1日以降の相続においては、遺留分侵害額の対象とはならなくなりますので、注意して下さい。

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