江口 正夫

弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2019/07/10

婚姻期間20年以上の夫婦間での自宅の土地建物の贈与

Q  私は、妻と結婚してから今年で25年の銀婚式を迎えます。
長年連れ添ってくれた妻への感謝の徴しるしとして、自宅の土地建物の2分の1を妻に贈与したいと思っています。
聞くところによると、生前贈与をしたものの、結局、私が死亡した後の相続の話し合いの際には、妻が贈与を受けた価額(土地建物の2分の1)は相続財産の前渡しと扱われ、妻は自分の相続分から贈与を受けた自宅の土地建物の2分の1の価額を差し引いた額しか受け取ることができなくなると聞いたのですが、本当でしょうか。
妻には、なるべく多くの財産を残してやりたいと思っているのですが、どうすればよいのでしょうか。


1 生前贈与と特別受益の持ち戻し

被相続人が、共同相続人の一人又は数人に婚姻、養子縁組若しくは生計の資本としての贈与(これを「特別受益」といいます。)をした場合には、贈与を受けた相続人は、遺産の前渡しを受け取っていたものとして、被相続人が死亡した際には、自己が受けるべき相続分から、既に貰っていた生前贈与分を差し引いた額の財産しか受け取れなくなります。
これを特別受益の持ち戻しといいます(民法第903条)。

民法は、このような扱いをすることが、生前贈与を行った被相続人の意思に合致する場合が多いとの考えのもとに、こうした規定を設けています。
しかし、被相続人の意思は、そうではない場合(例えば、長年連れ添ってくれた妻の努力に報いる気持ちで贈与をした場合などでは、贈与した分はそのままにして、妻にはさらに自分の遺産の法定相続分の割合で取得してほしいと考えている場合)もあり得ます。

2 特別受益の持ち戻し免除の意思表示

そこで、民法は、被相続人が特別受益の持ち戻しを免除する旨の意思表示をした場合には、それを有効としています(民法第903条4項)。
従って、被相続人が妻への生前贈与をした場合に、妻に対する生前贈与は自分の相続のさいに持ち戻す必要はないので、持ち戻しを免除するとの意思表示をすれば、持ち戻しは不要となります。
これから生前贈与をしようと考えている方は、持ち戻し免除の意思を表示しておけばよいことになります。
しかし、問題は、持ち戻し免除の意思表示を記載した書面が作成されることがほとんどないという点にあります。
相続の現場では、もともと、生前贈与したものを相続開始時に持ち戻さなければならないという知識をもっている方が少ないため、その持ち戻しを免除する意思を記載した書面を作成する人が殆どいないというのが実情です。

3 改正民法における特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定規定の新設

そこで、改正民法は、「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地(配偶者居住権を含む。)について遺贈又は贈与をしたときは、民法第903条第3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定する。」との規定を設けました。
この規定は令和元年7月1日から施行されます。
新しい民法では、

①「婚姻期間が20年以上の夫婦」の間で
②「居住の用に供する建物又はその敷地(配偶者居住権を含む。)」について、
③一方が他方に「遺贈又は贈与をしたとき」

には、①~③の事実があるだけで、特別受益の持ち戻し免除の意思表示がなされたものと法律上の推定がされることになりました。


対象は自宅の土地建物だけでなく、居住建物の配偶者居住権が遺贈又は贈与された場合も含まれます。この規定により、配偶者がより多くの財産を取得できることになります。
婚姻期間が20年以上のご夫婦は検討されてもよい制度ではないかと思います。
以 上

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