(株)大洋不動産

相続マインズ福岡

小峰 裕子

平成元年より不動産業に従事。不動産におけるすべての判断はオーナーご家族の幸せや将来設計に多大な影響を及ぼすことを実感する。1999年にCFP®資格取得、2000年にNPO法人相続アドバイザー協議会養成講座1期生として研修を受け、相続に強い不動産の専門家として不動産管理運営の相談業務を中心に、セミナー講師や不動産相続のサポート業務を行っている。
大洋不動産常務取締役・相続マインズ福岡代表
CFP®(1級ファイナンシャルプラン技能士)
CPM®(米国公認不動産経営管理士)

この執筆者の過去のコラム一覧

2020/03/10

民法改正でどう変わる?!賃貸借契約に与える影響

今年は4年に一度のオリンピックイヤーであると共に、実は120年ぶりとなる民法改正イヤーでもあります。4月1日から締結する賃貸借契約は新民法によることになるため、オーナー様には当然影響が及びます。
どのような点が変わるのか、改正の概要を確認してみましょう。
(参考文献 「民法(債権法)改正における実務ポイント」弁護士 江口正夫著/「民法改正と不動産取引」弁護士 吉田修平著)

借主の修繕権が明文化(改正法第607条の2)

修繕には「大」「中」「小」の区別があると思います。
「大修繕」は屋根や外壁など建物の躯体部分の修繕、「中修繕」は躯体部分まで至らないけど、放置すれば「雨漏り」や「すきま風」がというもの。
そして「小修繕」は畳やふすまの張り替え、電球交換などが該当します。

これらの修繕を借主が必要だとオーナーに通知したのに修繕しない、または急迫な事情があるときは、借主自ら修繕できるようになったのです。
これ「修繕権」といって、借主にとって有利な改正です。
借主が「修繕の必要がある」といえば修繕権が発生しますが、修繕が必要かどうかの判断だけでなく、必要だとしてもグレードアップされていたとしたら…悩ましいもの。

ただこの規定は任意規定、つまり特約を設ければ優先されます。
例えば「借主の修繕権は3万円以内の小修理に限る」とし、さらに畳やふすまの張り替えや電球交換等の小修理についても賃借人にご負担をお願いする」としていれば安心です。
ただ、何よりも管理会社のスピーディーな対応が一番望まれることは、言うまでもありません。

家賃の「当然減額」とは?!(改正法第611条)

これまで天災や延焼などで賃借物の一部が滅失して使えなくなったときは、その割合に応じて家賃の「減額請求をすることができる」と定められていましたが、改正で「家賃は当然減額される」ことになりました。
また「滅失」だけでなく賃借物が「使用収益出来なくなったとき」も加わることになりました。これは波紋を呼ぶ改正でしょう。

例えば「エアコンが作動しない」「給湯器が壊れてお風呂には入れない」というような場合、家賃は「当然減額」されます。お金で解決する道がはっきり示されたというわけです。

ただ、どのくらい減額になるのか契約前の合意がなければ、算定に納得がいかないとしてトラブルに発展しかねません。賃貸借契約書にしっかり減額割合を示す必要があります。
国土交通省のHPに「賃料減額ガイドライン」が提示されており、指針のひとつになるでしょう。

問題は、夏場のエアコン故障など品不足による対応の遅れです。
管理業者と設備業者との連携でオーナー様のリスク減少は可能かと思いますが、一番の有効策はメンテナンスを早めにそして計画的に行うことではないでしょうか。
借りる側の満足にも繋がりますし、お互い様の関係はオーナー様の安定した収入を支えるものと思います。

連帯保証人契約が無効に?!(改正民法第465条の2)

連帯保証人の保証範囲は、まれに想定外に及びます。
家賃滞納だけでなく、故意・過失による損害の賠償義務、行方不明、孤独死や自殺、犯罪死など事態の後始末の保証まで、場合によっては思いがけない金額が連帯責任として保証人に及びます。

それが今回、保証する金額の上限(極度額といいます)を明確にすると改正され、極度額を明記していないと保証契約は無効になります。

問題は極度額をいくらにするかです。
高すぎては保証人のなり手がいないとか、「公序良俗違反」を理由とした無効になる可能性があります。一方、低くても取りっぱぐれしそうで困りますよね。
裁判所の判例で認められた連帯保証人の負担額は、平均で13ヶ月分、最大で33ヶ月分ですから、極度額はおおむね1年~2年程度が一般的になると思われます。

なお、3月31日までに締結された契約は旧民法によります。法務省ならびに福岡県宅地建物取引業協会の見解では、改正前の契約が更新型契約である場合、借主については更新後は新民法が、連帯保証人についてはそのまま旧民法が適用されます。


更新時期に別段契約書も作成せず更新手数料も取っていない自動更新の場合は「合意更新」に当たらず、旧民法が適用されるのではないかとも思えなくもないのですが、それは判例を待つことになりそうです。

今回の民法改正がオーナー様と入居者の双方にとって良い関係を維持できる改正に繋がるよう、力を尽くしてまいります。ご不明な点は管理会社にご確認下さい。

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