江口 正夫

弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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この執筆者の過去のコラム一覧

2020/07/10

相続させる旨の遺言と登記等の要否

Q 先日、父が亡くなりました。
父は、自宅の土地建物は長男である私に相続させる旨の遺言を作成し、私がその遺言の保管を依頼されておりました。相続人は私の外に長女と次男がおりますが、遺言の披露は父の四十九日が終わってからと考えておりました。

 

ところが、次男が資金的にひっ迫していたらしく、父の死亡の直後に遺産である自宅の土地建物について、法定相続分の割合で、私と長女と次男がそれぞれ3分の1の共有である旨の相続登記を行い、次男は自宅の土地建物の3分の1の共有持分をA株式会社に売却してしまいました。
A株式会社からは、私と長女がA株式会社に各々の3分の1の持分を売り渡すか、あるいは、A株式会社の持分を買い取るかのいずれかの対応をしてほしいと要求されています。

父の遺言書には、自宅の土地建物は全て私に相続させると明確に記載されているのですから、遺言を盾にとって、自宅の土地建物は全て私の所有であると主張することはできないのでしょうか。


1 不動産の相続登記

民法では、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法第898条)と定められ、相続人の共有割合は、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」(民法第899条)と定められています。

従って、御父様が死亡された場合、民法の規定によれば、3人の子が3分の1の法定相続分をもって、御父様のご自宅の土地建物を共有することになるはずです。
このため、各相続人は、相続財産である不動産について、法定相続分をもって財産を承継した旨の登記を申請することができます。

この法定相続分に基づく登記には、御質問のケースのように、未だ遺産分割協議が成立する前の未分割の状態での法定相続分に基づく登記(遺産分割未了登記)と、相続人間で法定相続分割合で共有にすることの遺産分割協議を行った上での法定相続分に基づく登記(遺産分割完了登記)とがあり得ますが、いずれの登記も登記原因は「相続」と記載されるのみですので、登記の外形からは、それが遺産分割未了であるのか、それとも遺産分割が完了した上での登記であるのかの見分けがつきません。

2 相続させる旨の遺言があった場合と不動産の相続登記との関係

民法第898条は、相続人が複数である場合は、相続財産は相続人の共有となる旨が定められていますが、「自宅の土地建物を長男に相続させる」旨の遺言があれば、被相続人の相続開始(死亡)と同時に、自宅の土地建物は長男の所有になりますから、これまでの最高裁判所の判例では、相続させる旨の遺言による財産の承継は対抗要件(不動産の場合は「登記」)をすることなく、第三者に対抗できるとされていました(最判平成14年6月10日等)。

ところが、令和2年4月1日施行の改正民法(相続法)では、「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」(改正民法第899条の2)と定められました。

従って、改正民法(相続法)のもとでは、「長男に相続させる」旨の遺言があっても、長男の相続分(3分の1)を超える部分については、長男はそれが長男の所有である旨の登記をしていない限り、当該部分の権利を取得した第三者には対抗できないことになりました。

これからは、相続させる旨の遺言であっても、速やかに登記をしておくことが必要になりますので、注意して頂きたいと思います。

以 上

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