2021/01/10
預貯金の払戻し制度の新設
Q 父が先日亡くなりました。
相続人は母と長男である私と長女と次男の4名です。
母は認知症ではありませんが、心臓に疾患を抱えており、長期にわたり入院生活を送っています。母の入院費用はこれまで父が支払ってくれていました。
父が亡くなりましたが、父の遺産は不動産、現金、預貯金、有価証券、貸付金と多岐にわたりますので、遺産分割には時間がかかると思っています。
しかし、当面、母の入院医療費を支払う必要がありますので、母と私と長女との間で、今後も母の入院医療費は、とりあえず、父の預金を払い戻して支払うことで合意したのですが、次男は、父の遺産のうち大部分を占める不動産と有価証券を全て次男が単独で取得するという遺産分割協議書の調印に応じるのであれば合意するが、そうでない限り、父の預金の払い戻しに同意しないと言っています。
遺産分割協議の成立前に、父の預貯金を払い戻す方法はないのでしょうか。
1 預貯金債権は「当然分割財産」から「遺産分割の対象財産」へ
民法では、これまで、ゆうちょ銀行の定額貯金を除く預貯金債権等の可分債権は当然分割財産とされ(当然分割ということは遺産分割協議は不要で相続開始時に当然に法的に分割済であるという意味です。)、各共同相続人は金融機関に対し、法定相続分の払戻請求することは認められていました。
これが長年にわたる我が国の相続実務として確定していたのですが、平成28 年12 月19 日の最高裁大法廷決定により、判例が変更され、預貯金債権はいずれも、当然分割財産ではなく、遺産分割の対象財産であると解されることになり、その結果、現在では、各共同相続人はこれまでのように法定相続分に応じた額の払戻し請求を単独で行使できないこととなりました。
2 改正民法(相続法)の預貯金債権の位置づけ
改正相続法においても、この最高裁の判断を踏まえ、預貯金債権は当然分割ではなく遺産分割の対象財産であることを前提としています。
その結果、預貯金については、遺産分割協議が成立するまでは、各共同相続人が法定相続分に応じた額の払戻し請求を単独で行使できなくなりました。
しかし、これでは、被相続人の債務の弁済をする場合や、葬儀費用の支出、生活に困窮する相続人の生活費・医療費等の支弁、相続税等公租公課の支払に不便をきたすことが予想されます。
そこで、この不都合に対処するため、改正民法では、遺産分割協議が成立する前の段階で、預貯金の仮払いの制度を規定しました。
改正民法で認められた仮払いの制度は以下の2種類があります。
3 改正民法による預貯金の仮払い制度
(1 )家事事件手続法の保全処分による仮払い
家庭裁判所に遺産の分割の審判又は調停の申立てをした場合に、被相続人の債務の弁済や、相続人の生活費の支弁その他の事情により預貯金債権を払い戻す必要があることを主張して、家庭裁判所の保全処分として、その遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させる旨の決定を求める方法です。
ただし、この方法は、家庭裁判所の遺産分割の調停や審判を申し立てることが前提となります。
(2) 預貯金の3分の1の法定相続分を金融機関の窓口で受ける制度
もう一つの方法として、「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、その相続開始の時の債権額の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。
この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」という制度が新設されました。
要するに、預貯金の3分の1の額に各共同相続人の法定相続分を乗じた金額の払い戻しが認められます。
ただし、金融機関ごとに払戻しを認める上限額については、標準的な必要生計費や平均的な葬式の費用の額その他の事情(高齢者世帯の貯蓄状況)を勘案して法務省令で定めるものとされ、その上限額は150万円とされています。
例えば、被相続人の預貯金が1200万円であったとすると、その3分の1の400万円に法定相続分を乗じた金額となりますから、御母様はその2分の1の200万円となりますが上限があるので150万円を、他の4人の子らは400万円の8分の1の各50万円を遺産分割前であっても払い戻しを受けることができます。
Q 父が先日亡くなりました。
相続人は母と長男である私と長女と次男の4名です。
母は認知症ではありませんが、心臓に疾患を抱えており、長期にわたり入院生活を送っています。母の入院費用はこれまで父が支払ってくれていました。
父が亡くなりましたが、父の遺産は不動産、現金、預貯金、有価証券、貸付金と多岐にわたりますので、遺産分割には時間がかかると思っています。
しかし、当面、母の入院医療費を支払う必要がありますので、母と私と長女との間で、今後も母の入院医療費は、とりあえず、父の預金を払い戻して支払うことで合意したのですが、次男は、父の遺産のうち大部分を占める不動産と有価証券を全て次男が単独で取得するという遺産分割協議書の調印に応じるのであれば合意するが、そうでない限り、父の預金の払い戻しに同意しないと言っています。
遺産分割協議の成立前に、父の預貯金を払い戻す方法はないのでしょうか。
1 預貯金債権は「当然分割財産」から「遺産分割の対象財産」へ
民法では、これまで、ゆうちょ銀行の定額貯金を除く預貯金債権等の可分債権は当然分割財産とされ(当然分割ということは遺産分割協議は不要で相続開始時に当然に法的に分割済であるという意味です。)、各共同相続人は金融機関に対し、法定相続分の払戻請求することは認められていました。
これが長年にわたる我が国の相続実務として確定していたのですが、平成28 年12 月19 日の最高裁大法廷決定により、判例が変更され、預貯金債権はいずれも、当然分割財産ではなく、遺産分割の対象財産であると解されることになり、その結果、現在では、各共同相続人はこれまでのように法定相続分に応じた額の払戻し請求を単独で行使できないこととなりました。
2 改正民法(相続法)の預貯金債権の位置づけ
改正相続法においても、この最高裁の判断を踏まえ、預貯金債権は当然分割ではなく遺産分割の対象財産であることを前提としています。
その結果、預貯金については、遺産分割協議が成立するまでは、各共同相続人が法定相続分に応じた額の払戻し請求を単独で行使できなくなりました。
しかし、これでは、被相続人の債務の弁済をする場合や、葬儀費用の支出、生活に困窮する相続人の生活費・医療費等の支弁、相続税等公租公課の支払に不便をきたすことが予想されます。
そこで、この不都合に対処するため、改正民法では、遺産分割協議が成立する前の段階で、預貯金の仮払いの制度を規定しました。
改正民法で認められた仮払いの制度は以下の2種類があります。
3 改正民法による預貯金の仮払い制度
(1 )家事事件手続法の保全処分による仮払い
家庭裁判所に遺産の分割の審判又は調停の申立てをした場合に、被相続人の債務の弁済や、相続人の生活費の支弁その他の事情により預貯金債権を払い戻す必要があることを主張して、家庭裁判所の保全処分として、その遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させる旨の決定を求める方法です。
ただし、この方法は、家庭裁判所の遺産分割の調停や審判を申し立てることが前提となります。
(2) 預貯金の3分の1の法定相続分を金融機関の窓口で受ける制度
もう一つの方法として、「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、その相続開始の時の債権額の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。
この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」という制度が新設されました。
要するに、預貯金の3分の1の額に各共同相続人の法定相続分を乗じた金額の払い戻しが認められます。
ただし、金融機関ごとに払戻しを認める上限額については、標準的な必要生計費や平均的な葬式の費用の額その他の事情(高齢者世帯の貯蓄状況)を勘案して法務省令で定めるものとされ、その上限額は150万円とされています。
例えば、被相続人の預貯金が1200万円であったとすると、その3分の1の400万円に法定相続分を乗じた金額となりますから、御母様はその2分の1の200万円となりますが上限があるので150万円を、他の4人の子らは400万円の8分の1の各50万円を遺産分割前であっても払い戻しを受けることができます。
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