ファイナンシャルプランナー

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久保 逸郎

老後のお金の不安を解消する、ライフプランと資産運用&資産管理の専門家
「90歳まで安心のライフプラン」を合言葉にして、豊かな人生の実現に向けたライフプラン作りの支援を行っている。
独立から約15年にわたり相談業務を中心に実務派ファイナンシャルプランナーとして活動する傍ら、ライフプランや資産運用などのお金のことについて年間100回近い講演や、マネー雑誌やコラム等の原稿執筆を行うなど幅広く活動中。

この執筆者の過去のコラム一覧

2021/02/10

新型コロナウイルスの感染拡大で、インフレと低金利政策継続の可能性が高まる

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、まさに「第3波の到来」という状況になってきました。今のところ強行する可能性が高いと思っていますが、東京五輪の開催に反対する声も日増しに増えています。

 財政出動と金融緩和でインフレリスクが高まる

このような厳しい環境の中、世界各国は経済へのダメージを最小限に抑えるために、政府と中央銀行は積極的に財政出動と金融緩和を行っています。
金融の世界では常識ですが、世の中に流通するお金の量が増えれば増えるほど、お金の価値は下がっていくものです。つまり貨幣価値の低下=物の値段が上がるという関係ですから、今回の大規模な金融緩和で、将来的なインフレは避けられなくなっていると思います。
実際に経済が好調な米国では既に物価が上がり始めています。

日本においてはまだ消費者物価は上がっていませんが、それは企業が価格を抑えるために内容量を減らすなどの対策(いわゆる「ステルス値上げ」)をしているからだと思います。消費者物価指数には表れていなくても、生活者の実感として値上がりを感じる機会が増えていますね。

インフレはお金の価値が下がるということ

それではインフレでお金の価値が下がっていってしまうと、一体どうなってしまうのでしょうか?その価値の減少をイメージしていただくために、下記のグラフを作りました。

青色のラインは当初100万円の価値が毎年1%ずつ下がっていったケースです。10年後には約90万円、20年後には約81万円まで価値が下がることになります。
一方のオレンジ色のラインは2%ずつ価値が下がったケースです。こちらのケースだと100万円の価値が10年後には約81万円、20年後には約66万円まで下がることになります。20年でその価値が3分の2になってしまうわけです。
現在政府と日本銀行が一体になって行っているマイナス金利(政策金利マイナス0.1%)、インフレターゲット2%という、超低金利下でインフレを目指す政策は、オレンジ色のケースを目指しているといえます。

日本は長きにわたってデフレの時代が続いたため、インフレの感覚が忘れられたような感じですが、それでも少しずつ物価は上がってきましたよね。
例えば、私は息子が産まれた2004年に、妻がクルマで実家に行き来できるように、MAZDAのAZワゴン(SUZUKIワゴンRのOEM)をセカンドカーとして購入しました。新古車だったので税金等を全て含めてちょうど100万円でした。
今同程度の軽自動車を購入したら、150万円を超えるでしょう。100万円あれば買えていた軽自動車が、16年経った今は150万円を払っても買えなくなったわけです。

他に価格が上がったものとしては、不動産があります。
今年12月25日に国土交通省が発表した不動産価格指数によれば、九州・沖縄圏の中古マンションの価格は2013年1月からの約7年半で、約79%も上昇しています。第2次安倍政権が誕生した直後、日本銀行の金融緩和が始まった頃から「資産インフレ」が起きた結果ですね。

インフレによる債務削減効果が狙い

それではなぜ政府と日本銀行が、このような実質的な資産課税ともいえる政策を行っているのかというと、それは日本が莫大な債務を抱えているからです。
コロナ以前から日本の債務残高はGDPの2倍を超えていて、主要先進国の中では最も高い水準になっていました。
そこに新型コロナウイルスがやってきて債務が急拡大しています。どうにかしてこの債務を減らしていかなくてはいけないのですが、国の債務削減の手段は下記の4つくらいしかありません。

①増税、支出削減などによる政府収支の改善

②インフレを引き起こして、実質的に債務を減らす(インフレと低金利政策の同時進行)

③債務の増加を上回る経済成長を実現する(名目成長>債務拡大)

④デフォルト(債務不履行)、ヘアカット(債務の減免)

本来であれば①の手段で債務削減を行うべきだと思いますが、消費税をたった2%引き上げるだけで、相当な国民の反発が起きる状況で、増税をするのは容易なことではありません。また、社会保障費が年々膨れ上がっているため、支出の削減も難しいでしょう。
③は人口減少で現実的ではありませんし、④を世界第3位の経済大国である日本が行えるはずがありません。そこで(政府は認めませんが)②の手段に動き始めているのでしょう。

実は②による債務削減の効果は、第2次世界大戦で戦費が膨らんで財政が悪化した日本や米国・ドイツなど実証済です。日本は莫大な借金をインフレで一気に削減することに成功した経験があるのです(その当時日本人が貯めていたお金は、戦後3年半で100分の1の価値にまで下がってしまいました)。

貯金と保険・年金はインフレに弱い

私達日本人が好きな「貯金」と「保険」は典型的なインフレに弱い資産クラスです。(変額保険の場合は、投資先に株式等が含まれていればインフレ対抗力がありますが、最近一部の保険会社が力を入れている有期型の変額保険については、特別勘定の運用関係費や保険関係費が高過ぎて、顧客の資産形成に資するような商品とは言い難い面があるので注意してください。)

また、老後の生活の支えとなる「年金」も、マクロ経済スライドを採用しているため、その支給額は物価の上昇率よりも小さな上がり幅となる可能性が高く、インフレには弱いというのが現実です。

2000年頃から長きに渡って物価が伸び悩んできたことで、日本人の多くはインフレの怖さを忘れてしまっているような気がします。
大切な資産を守っていくためにも、この機会にインフレに備えることを行っていただきたいものです。

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