江口 正夫

弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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この執筆者の過去のコラム一覧

2021/04/10

相続における生命保険金の取り扱い

父親が死亡し、四十九日の法要を済ませた後に、父の相続についての話し合いが開かれました。
相続人は母Aと、長男C、次男D、他家に嫁いだ長女である私Eの4人です。

父名義の財産は、自宅の土地建物(評価額1億円)と、銀行預金3000万円でしたが、自宅の土地建物については父と母のみが居住していましたので、母が相続し、私達3人の兄弟は父の預金を相続するとの話になりました。
ところが、父は他家に嫁いだ私のために、契約者と被保険者をいずれも父とし、受取人を長女である私Eとする生命保険(死亡保険金5000万円)を契約してくれていました。

そこで、長男Cと次男Dは、父の生命保険金5000万円は相続財産である。従って、遺産は土地建物と銀行預金と生命保険金を合わせた1億8000万円であるが、相続分は母が2分の1,私達3人の子は各自6分の1だから、私の相続分は3000万円である。
生命保険金は5000万円だから、2000万円取り過ぎなので、2000万円を返せと言っています。

私の法定相続分を超えた生命保険金は、返還しなければならないのでしょうか。


1 相続における生命保険金の取り扱い

生命保険金(死亡保険金)は、被相続人である御父様の死亡により受け取ることのできる金銭ですから、まさに御父様の相続財産のように見えます。
相続税法上も、生命保険金は、みなし相続財産として相続税の課税の対象とされています。この点からみると、生命保険金は相続財産ではないかという疑問をもたれることも理解できないではありません。

しかし、生命保険金は、相続税法上の「みなし相続財産」とされているように、相続財産そのものではなく、相続財産とみなして相続税の課税をするということに過ぎません。すなわち、生命保険金は相続財産ではないのです。

このことは、相続財産とは何かということを考えてみれば分かります。
相続財産とは、被相続人が生前に所有していた財産のことです。
生命保険金の5000万円は御父様が保有していた財産ではありません。この5000万円は保険会社が有している金銭です。
それを、御父様と保険会社の契約によって、保険会社の財産である5000万円が保険金受取人に指定された者(御長女のE)に交付されるというだけのことです。

従って、今回、ご長女が受け取られる生命保険金5000万円は相続とは関係なく受領したものとされ、これとは別に御父様の相続財産の6分の1の財産を要求できることになります。

2 生命保険金を特別受益に準じて持ち戻すべき場合

生命保険金の相続における取り扱いの原則は上記のとおりです。しかし、どのような場合でも、生命保険金は相続とは関係がないと扱われるわけではありません。

例えば、最高裁平成16年10月29日決定では、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して」、相続人間の不公平が著しいと評価すべき特段の事情がある場合には、例外的に、死亡保険金が特別受益として持ち戻しの対象になるとしています。

特別受益の持ち戻しとは、受け取った財産(生命保険金)を相続財産とみなして、それを加算して相続財産の額を計算(本件では生命保険金5000万円を土地建物・預貯金に加算した1億8000万円)し、ご長女は3000万円の相続分のところ、生命保険金5000万円を受け取っているので、御父様の遺産の取り分はないと扱うことを意味します。
ただし、ご長女は超過している部分(2000万円)を返還する義務はないとするのが裁判所の考え方です。
この最高裁決定を受けて、名古屋高裁平成18年3月27日決定では、相続財産の総額が約8423万円、生命保険金の額が約5154万円、比率が61.1%の事案で、特別受益に準じて扱うことを認めたケースがあります。

生命保険金の額が遺産の5~6割を超えるような場合は、このような処理をされる可能性がありますので、専門家に御相談されたほうが良いと思います。

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