院長/認知症サポート医

医療法人すずらん会たろうクリニック

内田 直樹

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡市東区)院長、精神科医。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院勤務を経て、2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めた後、2015年より現職。
日本在宅医療連合学会評議員、日本老年精神医学会専門医・指導医、認知症の人と家族の会福岡支部顧問、福岡市在宅医療医会理事、NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク理事、など。精神保健指定医。「認知症の人に寄り添う在宅医療」他、著書・寄稿多数。福岡県福岡市東区名島1-1-31/TEL 092-410-3333

この執筆者の過去のコラム一覧

2021/05/10

認知症予防について

前回は、認知症によるもの忘れと加齢に伴うもの忘れの違いについてお伝えしました。
今回は、認知症に関するテーマでおそらく皆さんが最も興味がある認知症予防についてお伝えしたいと思います。

認知症の一次予防

認知症予防というと一般に「認知症にならないためにどうするか」をイメージされると思いますが、これは公衆衛生的には一次予防にあたります。
認知症発症の最大のリスク因子は加齢です。


図にあるように、65歳以降はおよそ5歳刻みで認知症の有病率は倍となり、90-94歳では約61%の人が認知症の状態となります。
極端な話、認知症にならないためには年を取らないようにしないといけません。

つまり、今の医学と科学では認知症の一次予防は不可能です。

認知症は「予防」から「備え」に

いきなり残念な結論となってしまいましたが、認知症の発症を遅らせたり認知症の発症後も進行を遅くしたりするためにできることはいくつかあります(公衆衛生の分野ではこれを二次予防三次予防といいます)。

研究によって認知症の二次予防・三次予防にエビデンスがあるものとしては、人と話すこと、運動をすること、規則正しい生活をすること、バランスの良い食事を摂ること、禁煙、節酒、歯周病予防、難聴の改善、血圧・血糖の良好なコントロールなどです。

見ていただくとおわかりにように、これらは何も認知症になるのを遅くするためだけに有効なことではなく、健康に長生きするために有効なこととして一般に広く知られていることです。
そして、これらの項目をきちんと実践すると長生きし、長生きすると認知症になります。結果的に認知症の状態にある人が増えるということにつながります。

「認知症予防」の言葉には、認知症をネガティブに捉え、避けなければならないものであるという意味が感じ取られます。
このため最近この分野では、「予防」ではなく「備え」という言葉を用いることが多くなっています(英語ではpreventionからrisk reduction)。

サプリメントは推奨しない

ちなみに、抗認知症薬を早くから飲むことや、イチョウ葉などのサプリメントに認知症発症抑制効果がないことにもエビデンスがあり、WHOの指針でも「サプリメントは推奨しない」とはっきり示されています。
「認知症予防」という言葉で不安を煽り、マーケティングにつなげようという企業の思惑もあるかもしれません。

引きこもった生活は認知症の進行を加速させる

認知症になるのを恐れていると、実際に認知症の状態となった際に認知症と診断されることを恐れ日常生活で失敗することを恐れて、引きこもった生活となってしまいます
引きこもると人と話さず、体を動かさなくなり、生活のリズムが崩れ、食事に偏りが生じることもあって、認知症の進行が加速してしまいます。

必要なのは、認知症を恐れず「歳を取れば誰でもなるものだ」と受け入れていくことだと考えています。

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