弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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この執筆者の過去のコラム一覧

2022/04/10

相続対策と相続人の順位

Q 父は自宅の建物の1階部分を、父が社長となっている株式会社に賃貸して事業を行っておりました。
私は、母親が亡くなった後、父が迎えた後妻(義母)と父と3人で自宅建物の2階部分で同居して暮らしてきました。
父が亡くなった後は、私と義母の2人だけが相続人でしたが、義母との仲もよかったので、遺産分割の際には、自宅建物は母が3分の2、私が3分の1の割合で共有して仲良く暮らしておりました。
義母も90歳を迎えることになり、義母が亡くなった場合には、義母と共有している自宅の建物はどうなるのかが心配になりました。

義母に聞いたところ、義母の両親は既に死去していますし、実子もいません。兄弟姉妹は殆どが死去していますが、弟が一人存命であるとのことです。
私は、義母死亡後は義母の兄弟と自宅の建物を共同で所有することになるのでしょうか。


自宅の建物の現在の権利関係

御父様の相続の際に、娘さんと義母のお二人が自宅建物を、娘さんが3分の1、義母が3分の2の割合で相続したとのことですので、現在、自宅の建物の所有権は、娘さんが3分の1の共有持分を有し、義母が3分の2の共有持分を有していることになります。

共有持分は、所有権の一種ですから、義母は、自宅の共有持分を第三者に譲渡することができますし、相続の対象ともなります。
自宅の共有持分が第三者に譲渡されると、自宅は、娘さんと、共有持分を買い受けた第三者との共有になります。義母の相続について何の対策もしていないと、自宅の建物は、娘さんと義母の相続人との間で共有することになります。

問題は、建物を共有している場合、建物の修繕などは共有者が単独で行うことができますので(民法252条但し書き)、娘さんお一人の判断で修繕することが可能なのですが、共有物の処分(例えば自宅建物を売却するという場合)は共有者の全員一致でなければ行うことができません(民法251条)。

また、共有物を誰に使用させるか、使用させる条件をどのようにするか、というような共有物の管理行為は、共有持分の過半数でなければ決めることができません(民法252条本文)。

義母の相続人

義母の兄弟姉妹のうち、ご存命なのは弟さんお一人ということですが、相続人となるのは現在存命している弟一人とは限りません。
兄弟姉妹が相続人となる場合には、その兄弟姉妹が被相続人(義母)の死亡前に死亡していた場合には、その兄弟姉妹の子(義母からすると甥、姪)が相続人となります。これを「代襲相続」といいます(民法889条2項)。

相続対策として考えられること

現状のまま義母の方が亡くなられると、義母の存命中の弟や、他の亡くなった兄弟姉妹の子たちが自宅の建物の3分の2の共有持分を相続により取得します。甥、姪の数が多い場合には、大勢で自宅建物の管理について話し合うことにもなりかねません。

そうした場合でも、義母の方の意思次第では、自宅の建物を娘さん一人に相続させることができます。それは、義母と娘さんが養子縁組をすることです。実は、相続人には順位があるのです。

第1順位は、被相続人の子等、第2順位は被相続人の直系尊属(被相続人の両親等)、第3順位が被相続人の兄弟姉妹です(民法889条1項)。
現在、義母には第1順位も、第2順位の相続人もいないので、第3順位の兄弟姉妹が相続人となりますが、義母と娘さんが養子縁組をすると、娘さんが第1順位の相続人となりますので、第3順位の兄弟姉妹は相続人ではなくなるのです。

義母と兄弟姉妹の関係にもよることですので、よく話し合って決めることが必要ですが、こうした方法もあり得ることは知っておいて頂ければと思います。

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