院長/認知症サポート医

医療法人すずらん会たろうクリニック

内田 直樹

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡市東区)院長、精神科医。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院勤務を経て、2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めた後、2015年より現職。
日本在宅医療連合学会評議員、日本老年精神医学会専門医・指導医、認知症の人と家族の会福岡支部顧問、福岡市在宅医療医会理事、NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク理事、など。精神保健指定医。「認知症の人に寄り添う在宅医療」他、著書・寄稿多数。福岡県福岡市東区名島1-1-31/TEL 092-410-3333

この執筆者の過去のコラム一覧

2022/05/10

自殺予防について

自殺は一般に頻度が高いことではありませんが、10代から30代の死因の第一位は自殺であり、一時期減少していた自殺者数は2020年に11年ぶりに増加に転じ2021年も高止まりしています。
自殺には複数の要因が関わっており、支援を行うには様々な職種の力が必要になることがあります。また、慣れない人、知識のない人ほど自殺の危険を過小評価しがちだと言われています。

「目の前の人から”死にたい”と打ち明けられた時にどうしますか」と問われた際によくある反応として「なぜそう思うのか尋ねる」「とにかくその人の話を聞く」というものがあり、実際にその場面になった時には「聞かなかったことにする」「自殺はダメ、と諭す」「家族が悲しむことを伝える」「命の大切さについて話す」といった対応がとられることがあります。
これらは、いずれも不十分な対応です。

「死にたい」という気持ちを持った人と接する時には、TALKの原則

「死にたい」という気持ちを持った人と接する時に、しっかり向き合うための対応としては、TALKの原則が役に立ちます。
TALKはTell、Ask、Listen、Keep safeの頭文字です。

■Tell
まず、はっきり言葉に出して「あなたのことを心配している」と伝えます。
誠実な態度で話すことが重要ですが、ここで諭すように話しすぎないことも重要です。
■Ask
次に、死にたいと思っているかどうかを率直に尋ねます。
死にたいと思っている人に死や自殺を話題にして、これによって自殺行動が惹起されるということは決してありません。むしろ、自殺行動のブレーキとなります。
■Listen
つづいて、相手の絶望的な気持ちを徹底的に傾聴します。
絶望的な気持ちを一生懸命受け止めて聞き役にまわりります。とりあえず10分間はしっかり聞くということが一つの目安です。
死にたい気持ちを持つ人は、10分間話を聞いてもらったことがない人が多いようです。
■Keep safe
ここまでの対応を行ったうえで、やはり自殺のリスクが高いと判断すれば、まず本人の安全を確保して、周囲の人の協力をえて適切な対処をします。
ここで、大変な時には周囲の人の協力を得るのだということを実際にやってみせるということも重要です。

自殺の危険が心配になったら、しなければならない3つのこと

1 心理状態を確認する

心理状態(自殺念慮の振り子モデル、心理的視野狭窄、焦燥感)

■自殺念慮の振り子モデル
自殺念慮は一定ではなく振り子のように両極を揺れ動いて、死にたいと生きたいをいったりきたりしており、場合によっては両方の気持ちを同時に持つこともあります。
行動に移った段階では考えるレベルを超えており、話せる状態にすることが目標となります。
■心理的視野狭窄
普段の状態なら解決策やブレーキをかけることを考えますが、心理的視野狭窄状態になると自殺しかみえなくなります。
視野が狭くなった人の視野を広くすることを目指します。
「自殺をやめましょう」ではなく、具体的な解決先について考えていきます。
例えば、お金の問題なら司法書士に相談してみる、などです。
■焦燥感 
外からのプレッシャー、心の痛み、焦燥感、が極まった時に自殺が起きるという自殺に関する理論的立方体モデルがあります。
この3つの中で、焦燥感は本人に聞かなくても他覚的に評価できるため意識しておきます。

2 自殺の危険因子を確認する

SAD PERSONSスケール

自殺の危険因子を確認する際に、SAD PERSONSスケールが役に立ちます。これは、自殺の危険因子の頭文字です。

Sex 男性
Age 年齢・高齢者と思春期
Depression うつ病
Previous attempt 自殺企図歴
Ethanol abuse アルコール、薬物の乱用
Rational thinking loss 合理的思考の欠如
Social support deficit 社会的援助の欠如
Organized plan 練られた計画
No spouse 配偶者の欠如
Sickness 慢性の病気

自殺の危険の評価に基づき可能な限り自殺の危険性を減らす、変えられる危険因子から変える、変えられない場合は心理状態を安定させる、という視点が必要になります。
自殺の原因はこれ!と特定しがちだが、直線的な考え方は馴染みません。
自殺の原因を問わない、自殺に関わる複数の要因を探る、そして要因をできるだけ減らすことを考えます。

3 できることから積極的に働きかけ、自殺行動にブレーキをかける

自殺の手段を遠ざける、心理状態を安定させる、を行なった上で、危険因子を減らします。
私たちに求められることは、まず一つに、「孤立しない、孤立させない」ということ。
危機的な状況では、わずかな支援が大きな力になることを自覚する。
次に、「希望を持ち続ける」ということ。

私たちが生き残るという事が重要です。

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