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久保 逸郎

老後のお金の不安を解消する、ライフプランと資産運用&資産管理の専門家
「90歳まで安心のライフプラン」を合言葉にして、豊かな人生の実現に向けたライフプラン作りの支援を行っている。
独立から約15年にわたり相談業務を中心に実務派ファイナンシャルプランナーとして活動する傍ら、ライフプランや資産運用などのお金のことについて年間100回近い講演や、マネー雑誌やコラム等の原稿執筆を行うなど幅広く活動中。

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2022/05/10

長期的なインフレに備えるための資産運用

最近はインフレの話題を耳にする機会が多くなってきましたね。
今のところ日本の消費者物価指数は前年比0.8%(2022年3月、生鮮食品を除く総合)の上昇にとどまっていますが、菅義偉政権時代の携帯電話通信料引き下げの影響があってのことで、この引き下げの影響が約1.5%程度の引き下げ効果をもたらしているといわれているため、実質的には2%近い物価上昇が起きていると考えておいたほうがいいでしょう。
ちなみに同じ3月の米国の消費者物価指数(CPI)は前年比8.5%で、1981年12月以来の高い上昇幅になっています。

今回の高い物価上昇は昨年前半から起こり始めていましたが、その後に起きたロシアによるウクライナ侵攻で長期化することが予想されます。
その理由ですが、ロシアは世界でも屈指の資源国であり、世界全体の生産量の内、原油は13%、ガス生産は17%を占めているためです。
脱ロシアを実現するために各国がエネルギー政策の見直しを迫られていますが、エネルギーの転換には時間がかかるため、インフレの長期化は避けられそうにありません。

保有資産の中に物価上昇に強い資産を組み込む

それでは私達生活者はどのようにインフレに備えればいいのでしょうか?
日本人で投資を好む人は少数派であるため、おそらく節約と我慢などでインフレを乗り切ろうとする人が多くなると思いますが、1~2年程度の短気のインフレならともかく、長期のインフレに節約と我慢で対抗するのは無理があります。
やはり海外の人達のように、保有資産の中に物価上昇にも対応できる資産を一定割合組み込むことで、インフレに対抗するべきだと思います。
一般的に物価上昇に強いと考えられている資産は下記の通りです。

<株式> 
インフレにより商品の価格が上がるため、企業の売上や利益が向上して株価上昇につながる傾向があります。
但し、インフレに強い業種と弱い業種がある点は要注意。

<商品(コモディティ)>
原油や液化天然ガスなどのエネルギーは、物価への影響が大きい資産の代表格です。
また、金(GOLD)もインフレに強い資産です。

<物価連動国債>
物価の上昇率に応じて元金が増える国債。
受取利子と償還額が物価につれて動くため、インフレに強い金融商品です。
但し、物価が下がると利回りが低下するなど注意点もあります。

<高金利通貨>
金利水準の高い外貨に投資を行うことで物価上昇率以上の収益を獲得して、インフレに対抗する方法。高金利通貨がターゲットになりますが、かつてトルコやブラジルといった高金利の国々の債券を金融機関が積極的に販売しましたが、その後為替が大幅に円高方向に振れたことで、悲惨な運用結果になっているようです。
金利水準だけを見て安易に飛びつくと、後で痛い目をみることになりかねません。

<不動産> 
賃料は物価と連動する傾向があるため、インフレによって不動産価値の上昇が期待できると言われており、実際に米国では賃料の上昇が消費者物価指数(CPI)を押し上げる大きな要因になっています。
但し、日本は急激なペースで生産年齢人口が減り始めており、既に地域によっては空室率が相当高くなっていることから、賃料収入を期待して不動産投資を行ってもインフレ対策にならない可能性も高いので、物件等を見極める力が必要になります。

各資産の特徴を押さえて投資を行う

上記はいずれも元本割れしてしまう可能性があるリスク資産ですが、これらを保有資産の一部に組み込むことで、インフレに対抗することが出来るようになります。
それに各資産の特徴を押さえておくことも重要です。
たとえば景気の先行指標ともいえる株価は、物価や景気に先行するという特性があります。
そのため景気回復の時期に優位な資産といえます。

その一方で、商品(コモディティ)は、農産物などは景気回復の時期に優位ですが、エネルギーなどは実際に需要が高まる景気加速期に価格が上がるという特徴があります。
また、物価連動債などは景気がピークを迎えた後の減速期に優位です。

このように各資産によって値動きのタイミングが異なるため、どれか一つに偏らせるのではなく、全体的にバランスよく保有していくことが大切になるでしょう。

日本の家計のインフレ耐性は、欧米に比べて弱い

私達日本人が好む預貯金や保険、また公的年金のような資産は、いずれもインフレに弱い資産クラスです。そのため日本の家計のインフレ耐性は、欧米に比べて弱いと言われています。
これは20年近く続いたデフレ時代の弊害といえるものですが、何も対策をしないでいると保有金融資産の実質価値は下がっていく一方です。

リスク資産への投資に二の足を踏む人がいることは理解していますが、もはや節約を頑張ればなんとかなるという段階ではないので、比較的リスクが低い物価連動国債からでも構わないので、インフレに備えた資産運用を始めてもらいたいと思います。

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