院長/認知症サポート医

医療法人すずらん会たろうクリニック

内田 直樹

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡市東区)院長、精神科医。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院勤務を経て、2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めた後、2015年より現職。
日本在宅医療連合学会評議員、日本老年精神医学会専門医・指導医、認知症の人と家族の会福岡支部顧問、福岡市在宅医療医会理事、NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク理事、など。精神保健指定医。「認知症の人に寄り添う在宅医療」他、著書・寄稿多数。福岡県福岡市東区名島1-1-31/TEL 092-410-3333

この執筆者の過去のコラム一覧

2022/08/10

人生の最終段階における医療とケアについて考える

先日、相続マインズ福岡の定例研修会でお話しする機会をいただきました。
テーマは、「人生の最終段階における医療とケアについて考える」です。

本人や家族の満足度が向上しない理由とは

「人生の最終段階」は、以前「終末期」と言われていました。
いよいよ人生の最終段階という時、どういった医療やケアを受けるか自分で判断できる人は3割しかいないと言われています。
多くの人が長生きするようになった中で、このコラムでもお伝えしているように長生きすると誰しも認知症の状態となるため、自分で判断することが難しくなるのです。

このため、事前に自分で意思を示しておこう、として考えられたのがリビングウィルや事前指示書と言われるものです。
欧米を中心にひろまりましたがその後の研究で、書類で事前に意思を示しておいても、本人や家族の満足度は向上しないということがわかりました。
人の気持ちは変わりうることや、事前に書類に残していない想像もしないことがしばしば起きることなどが理由のようです。

注目されるアドバンスケアプランニング(ACP)

このため、事前に書類に残すことに変わって注目されたのが、アドバンスケアプランニング(ACP)です。
ACPは、医療やケアについての話し合いを何度も重ねるプロセスを重視します。命には関わらないまでも肺炎になった、転んで骨折したなど、さまざまなタイミングで、本人と医療・介護職で話し合いを行います。

また、ここで重要なのが代理意思決定者を決めておくことです。
お伝えしたように、人生の最終段階において多くの人は自分で意思決定ができません。このため、「自分が意思決定できなくなったらこの人の判断に任せます」という代理意思決定者をあらかじめ決めておくのです。
その上で、本人と医療・介護職の話し合いに代理意思決定者も入ってもらい、話し合いのプロセスを重ねていきます。

本人の推定意思に沿い決定する

途中で本人が意思決定を行うことが難しくなった際には、医療・介護職と代理意思決定者が話し合って方針を決定します。

このときに重要なのが、本人の推定意思に沿って決定するという考え方です。

過去には、本人が意思決定できない状況になった場合、「本人は判断できないのでご家族で判断して決めてください。」と決断を迫られることがありました。
しかしこれでは、判断の負担を家族に負わせることになり、「あそこで胃瘻を抜いた判断は良かったのだろうか」と後々まで悩みを抱えることにもつながっていました。

本人の自己コントロール感の高まりと家族の負担軽減も

また、本人の意思が尊重されていないという課題もありました。
このため、話し合いを重ねた医療・介護職と代理意思決定者によって本人の意思を推定し、「今本人は認知症の状態にあるため自分で判断できないけど、もし判断できるとしたらこう希望するだろう」という推定意思に沿って決定するのです。

これによって、家族などの代理意思決定者に意思決定の負担をおわせることが減り、本人の意思も尊重することができます。
ACPを行うことで、本人の自己コントロール感が高まり、患者と家族の満足度が向上し、遺族の不安や抑うつが減少することがわかっています。

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