弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2023/01/10

遺産分割の期限に関する法改正

Q 私の父方の祖母が亡くなってから12年が経過しています。
祖母には長男である私の父と、二男である叔父、長女である叔母がいるのですが、父と叔父との間が疎遠になっており、未だに遺産分割もなされておらず、祖母名義の不動産も、未だに祖母名義のままです。

相続が行われているのに、相続の処理をせず放置していても問題がないのか気になっています。
12年というと、普通なら消滅時効といわれる10年の期間を過ぎていますが、遺産分割は何時までにしなければならいというような制限はあるのでしょうか。
仮に、制限がないのであれば、このまま放置しておいても、特に問題はないのでしょうか。


1 遺産分割の時期

民法は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています(民法第896条)。
「相続開始の時」とは被相続人が死亡した時ですから、ある方がお亡くなりになった場合に、相続人は、その瞬間にその方の有していた一切の財産を承継します。

相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法第898条)とも定められていますので、相続人が遺産分割協議をして各財産の取得者を決定しない間は、各相続人は、被相続人の財産については共有者として共有持分を有するとされています。

「共有」とは所有権を共同で保有しているという意味です。

民法では、所有権はそれ自体が消滅時効にかかることはありません。
従って、複数の相続人が相続する場合には、被相続人の財産を各相続人が共同所有するため、その権利自体は時効にはかからないのです。
このため、民法は、「共同相続人は、第908条の規定によって被相続人が遺言で禁じた場合を除く外、何時でも、その協議で、遺産の分割をすることができる(民法第907条1項)と定めています。

つまり、遺産分割協議は何時でもすることができますので、相続開始後10年を経過したからといって、遺産分割協議が出来なくなるというわけではありません。
文字通り、何時でも行うことができます。

2 令和4年6月の民法改正

被相続人の預貯金の仮払制度や自筆証書遺言の要件緩和等を新たに定めた平成30年7月に成立した民法改正とは別枠で、令和4年6月にも民法が改正され、相続開始後、長期間遺産分割協議をしない場合には、原則として、具体的相続分による遺産分割協議が認められなくなり、法定相続分に従って遺産分割がなされるという法改正が行われました。

これまで民法には遺産分割の時期について、相続開始後一定の時期までに遺産分割をしなかったとしても、何も法的に制限されることはありませんでした。(但し、相続税法上の取り扱いは別です)。
相続開始後10年以上経過していても、遺産分割協議の際には、法定相続分に寄与分や特別受益の持ち戻しにより調整した具体的相続分による遺産分割が認められていました。

今回の改正により、相続開始後10年以上経過しても遺産分割が行われていない相続財産については、原則的に法定相続分に基づく遺産分割によることとなりました。
この法改正は、遺産分割がされないまま長期間が経過すると、遺産の管理や処分が困難となり、所有者不明土地が生じる原因にもなり得ることから、こうした事態を解消することを目的に行われたものです。

3 改正法の施行日

施行日は令和5年4月1日です。

注意すべき点は、この改正は、施行日前に被相続人が死亡して既に相続が開始していた場合の遺産分割についても、今回の改正法が適用されるという点です。

但し、経過措置により、相続開始時から10年経過時または改正法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに遺産分割請求がされた場合には、寄与分や特別受益の持ち戻しによる具体的相続分による遺産分割が可能です。
現時点で相続開始から10年以上経過していても、少なくとも施行日である令和5年4月1日から5年間は猶予期間があるということになります。

寄与分や特別受益で揉めており、相続開始後10年以内に遺産分割協議が成立しないおそれがあり、それでもなお、寄与分や特別受益の持ち戻しによる遺産分割を行いたいという場合には、相続開始後10年を経過する前(今回の法改正前に相続が開始したケースでは令和5年4月1日から5年経過する前)に、家庭裁判所に遺産分割請求をする必要があります。

なお、相続人全員が合意した場合は、相続開始後10年を経過した後でも具体的相続分での分割をすることは可能です。

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