弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2023/04/10

相続登記の義務化に対してどうすればよいか?

 父が亡くなりました。
母と長男である私と長女である妹の3人が相続人であることは間違いないのですが、母から聞いた話では、そのほかに、父には前妻との間に生まれた子が何人かいるそうです。

自宅の土地建物が父名義のままですので、遺産分割の協議をして自宅の土地建物の相続登記を行いたいのですが、母の話では、前妻の子の一人はロサンゼルス在住らしいとのことです。実際に、住民票上はアメリカのカリフォルニア州に移転した旨の記載はありますが、現在、何処に住んでいるのか詳しいことは誰も知りませんし、他の子については何もわかっていません。

これまでは、相続の登記はしても、しなくとも自由だと聞いていましたが、このたび、所有者不明土地が増加していることから、相続登記を義務付ける法律が制定されたと聞きました。
何時から相続登記の義務付けが始まるのでしょうか。
また、私のように、相続人の所在もわからず、遺産分割協議も進められない状態にあるときは、どうすればよいのでしょうか。


1 相続の登記制度

これまで、相続により被相続人から不動産を取得しても、相続による名義変更登記をするかしないかは本人の自由でした。法律上、相続登記を申請することは国民の義務とはされていなかったのです。
このため、相続が発生しても不動産の登記名義人は相変わらず死亡した被相続人のままという不動産も少なくありませんでした。実際の不動産登記簿を見ると、明治時代に所有権移転登記をした後、まったく権利の移転の登記がなされていないというものもあります。

しかし、相続登記の未了は所有者不明土地の主要な発生原因の一つといわれており、所有者不明土地問題の解決を図るため、相続登記の申請を義務化する法律が制定されました。

2 相続登記の義務化

所有者不明土地問題の解決を図るため、令和3年4月21日に民法・不動産登記法の改正が行われ、令和3年4月28日公布、令和6年4月1日から施行されます。

具体的には、相続や遺贈(相続人に対する遺贈に限ります。)により不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続の登記をすることが義務付けられました。
その結果、正当な理由なく相続登記を怠った場合には10万円以下の過料の制裁が科されることになりました。

しかし、御質問のケースのように、相続人の一人が所在不明では遺産分割協議も出来ませんが、そのときは、どのようにしたらよいのでしょうか。

3 相続人申告登記

相続人全員の住所分からない、遺産分割も成立する見通しがない、という場合には、速やかに相続登記をすることは困難です。そこで、この法律は、新たに「相続人申告登記」という制度を設けました。

相続人申告登記とは、相続人が、
①所有権の登記名義人が死亡し相続が開始したこと
②自らがその相続人であることを登記義務の履行期間(3年間)内に登記官に申し出ること
に因り、相続登記の申請義務を履行したものと看做されるというものです。

この相続人申告登記は、相続人が複数いる場合でも、相続人が単独で申請できます。
また、法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定する必要もありません。
この登記をする際の添付資料も、自分が登記名義人の相続人であることが分かる戸籍謄本を提出することで足りるので、これなら単独でもできそうです。

ただし、相続人申告登記をしたとしても、その後、遺産分割協議が成立して被相続人名義の不動産を取得した相続人は、遺産分割の日から3年以内に登記をすることが義務づけられています。遺産分割による名義変更登記を正当な理由なく怠れば10万円以下の過料が科されることになりますので注意して下さい。

4 その他の改正点

相続登記を促進するためには、相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくすることが必要です。このため、登記官が、特定の被相続人名義で登記されている不動産を一覧的にリスト化して証明する「所有不動産記録証明制度」が新設されます。
また、所有権の登記名義人は、個人のほか、法人も住所、氏名、名称変更をした場合には住所氏名等変更登記が義務化され、2年以内に登記をしなかった場合は5万円以下の過料が科されることになりました。

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