ファイナンシャルプランナー

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久保 逸郎

老後のお金の不安を解消する、ライフプランと資産運用&資産管理の専門家
「90歳まで安心のライフプラン」を合言葉にして、豊かな人生の実現に向けたライフプラン作りの支援を行っている。
独立から約15年にわたり相談業務を中心に実務派ファイナンシャルプランナーとして活動する傍ら、ライフプランや資産運用などのお金のことについて年間100回近い講演や、マネー雑誌やコラム等の原稿執筆を行うなど幅広く活動中。

この執筆者の過去のコラム一覧

2023/05/10

低成長が見込まれる米国の株式中心の投資で本当にいいの?

世界経済は回復基調にあるものの見通しは不透明

2023年4月11日に国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しを発表しました。
IMFが四半期毎に発表している最新の世界経済見通しは大変注目度が高く、世界経済に大きな影響を与えます。

この発表の見方としては、数字ではなく方向感を捉えることが大事になりますが、今回4月の発表では世界全体の成長率を2.8%と予想しており、前回1月の見通しから0.1%引き下げられました。
前回1月発表の見通しでは、欧州が暖冬などで景気後退を回避するとの期待、また、中国の経済再開やインフレ鈍化への期待などから上方修正が行われたことからすると、この3ヶ月の間に一気に悪い方向に変化したことになりますね。


作成:IMF(国際通貨基金)のデータを基に筆者作成

金融リスクの増大

下方修正に変化した要因としては、IMFは金融市場の混乱や高インフレ、ロシアによるウクライナ侵攻の的な影響、3年にわたるコロナ禍で世界中で公的債務の対GDP比が急上昇し、今後も高水準で推移すると見られていること等を挙げています。

とくに3月に起きた米国シリコンバレーバンク、シグネチャーバンクの経営破綻、また、スイスの名門クレディ・スイスが経営に行き詰まり、UBSに買収されることになったことのインパクトは大変大きいものです。
金利急上昇の影響で、足元では銀行の経営環境が急激に悪化しており、そこに今回クレディ・スイスのAT1債が無価値化されたことも加わって、これから金融機関の資金調達に負の影響が残ることになると思われます。

銀行の経営環境が悪化するということは、貸出余力が少さくなるということであり、実際に米国の銀行を中心に貸し出しの縮小が起こり始めています。
信用力の乏しい中小企業や不動産向け融資を中心にリファイナンス(借り換え)が出来ない事態も増え始めており、このことが徐々に経済にマイナスの影響を与えてくるでしょう。

経済成長鈍化の背景にあるものは

その一方で、インフレの高止まりが続いていることから、市場が期待している年内の利下げについては先送りされる可能性が高いと思われます。
足元の米国の景気後退リスクは高まっていますが、本格的な景気悪化は来年以降とみられることから、FRBは年内はインフレ対応を優先することになるのではないでしょうか?

コロナ禍以降はとくに米国株の上昇が目立ち、注目が集まりました。
上記のグラフは先進国株式、新興国株式、全世界株式のパフォーマンスを比較したものですが、先進国株式指数(MSCI Kokusai Index)に占める米国株のウエイトは約7割と高いことから、先進国株式指数は新興国株式指数(MSCI Emerging Market Index)を大幅に上回るパフォーマンスでした。

しかし、IMFの経済成長見通しでわかるように、今後については米国経済の成長見通しはけっして明るいものではありません
今回の発表前の4月6日にIMFのゲオルギエワ専務理事が講演で、今後5年間の世界の経済成長率見通しを約3%と予測したそうですが、これは中期の見通しとしては1990年以来の低さで、その背景には米国経済の低成長が見込まれることがあります。

退職金等のまとまった資金運用は堅実性がいちばん

日本の個人投資家の動向を見ていると、一部にはS&P500指数連動のインデックスファンドなどから全世界株式指数(MSCI WORLD、通称「オールカントリー」)に投資対象を変える動きも見られますが、依然として米国株のウエイトが高い状況に変わりはありません。

また、マーケットの潮目の変化をしっかりと捉えていないのか、または古い情報を鵜吞みにしたまま投資をしているのかはわかりませんが、相変わらず成長セクターを中心に米国株に偏った投資を続けている人も多いようです。
筆者も長期の視点でいえば米国の成長セクターは期待できる資産クラスだと考えていますが、最近の銀行経営環境の悪化は十分な業績の裏付けが無い中小企業や成長セクターのほうに影響を与えることが予想されるため、退職金等のまとまった資金の運用をしている人がそのような足元のリスクに気付いて投資を行っているのかなぁと心配しています。

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