弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

〒100-0006
東京都千代田区有楽町1丁目10番1号 有楽町ビル4階424区

海谷・江口・池田法律事務所
TEL03-3211-8086 
メール

この執筆者の過去のコラム一覧

2023/07/10

葬儀費用は誰が負担すべきものか?

母が亡くなりました。
父は既に他界していますので、長男である私と長女と次男の3人で相続することになりましたが、母の葬儀は長男である私が行うべきだと言われ、私が喪主となって執り行いました。

葬儀費用は、私も次男も長女も、それぞれに母の遺産を受け取るのですから、母の葬儀費用は母の遺産である預貯金から支払い、残りの財産を3人で分けようと思ったのですが、次男も長女も葬儀の喪主は私だったのだから、葬儀費用は全額私の負担であると言っています。

葬儀費用は、本来、誰が負担すべきものなのでしょうか。


1 葬儀費用の負担に関する民法の規定

葬儀費用を誰がどのように負担するかについては、意外に思われるかもしれませんが、民法その他の法律において特に定められていないのです。
このため、裁判例でも葬儀費用を誰が負担すべきかについては判断が分かれています。

そもそも、葬儀費用とは何か? という点についても、人によって見解が異なっているようですので、葬儀費用とは何と何を指すのかも明確にしておく必要があります。

2 葬儀費用とは?

裁判例では、葬儀費用とは「死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)」としたものがあり(名古屋高判平成24年3月29日)、死者の追悼儀式に要する費用については、「葬式費用とは、 死者を弔うのに直接必要な儀式費用をいうものと解するのが相当であるから、これには、棺柩その他葬具・葬式場設営・読経・火葬の費用、人夫の給料、墓地の代価、墓標の費用等が含まれるのみであって、法要等の法事、石碑建立等の費用はこれに含まれないと解する。」 と判示したものがあります(東京地判昭和61年1月28日)。
前述のとおり、葬儀費用を誰が負担すべきかについては裁判例もわかれています。

3 葬儀費用の負担に関する裁判例の動向

(1)共同相続人の負担となるとする説(東京高裁昭和30年9月5日決定・大阪高裁昭和49年9月17日決定等)
(2)相続財産から支出すべきとする説(東京地裁平成24年5月29日判決)葬儀費用は被相続人の死亡に伴って社会通念上必要とされる費用であることを理由としています。
(3)喪主が負担するという説(東京地裁昭和61年1月28日判決、神戸家裁平成11年4月30日審判)。 葬儀費用は相続債務ではないこと、葬儀を実施するのが相続人であるとは限らないことを理由としています。
(4)葬儀費用のうち、通夜や告別式の費用は喪主が負担し、遺体の火葬や埋葬の費用は「祭祀承継者」が負担するのが原則であるとする説(名古屋高判平成24年3月29日)

なお、祭祀承継者とは、お墓・位牌・仏壇などの「祭祀財産」を承継する者をいいます。
この説の理由としては、通夜や告別式にどれくらいの費用をかけて行うかは喪主の責任で決める事柄である以上は喪主が費用を負担すべきであること、また、遺骨の所有権は祭祀承継者に帰属する以上はその管理費用は祭祀承継者が負担すべきであることが挙げられています。

これらの判決に共通しているのは、葬儀費用は当然に相続人の負担となるものではない、ということですが、最近では、葬儀費用が相続開始後に生じた債務であり、被相続人の債務ではないことなどから、法的には、喪主の負担であるとする考え方が有力となっています。

但し、法的判断はともかく、実務では、相続財産から支出したり、相続人全員で負担するというケースも少なくありませんので、まずは、相続人間でよく話し合うことが必要だと思います。

すべての著作権は(株)大洋不動産に帰属しています。無断転載は固くお断りいたします。