弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2024/01/10

先祖代々の墓は遺産分割で取得することができるか。

Q 当家では、先祖代々の墓は祖父の名義で取得され、祖父から父へと引き継がれております。
この度、父が亡くなり、長男である私と長女、次男の3人が相続人ですが、私は亡父と同居しずっと父の暮らしをみてきたので、先祖の祭祀も私がすることになりました。
それには長女の次男も異論はないのですが、祖父の時代とは異なり、この墓地周辺の地価も高騰しており、墓地はかなり土地価格が高額なエリアにありますので、遺産分割協議をするに当たっては、私が墓地を取得することの代償金として、長女と次男はそれぞれ墓地の土地価格の3分の1を支払ってほしいと言ってきました。

墓地を私が取得する以上、他の相続人の相続分割合の金額を代償金として支払わなければならないのでしょうか。

 


1 相続における権利・義務の承継

相続の効力について、民法第898条は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」と定め、第899条では「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」と定めています。
従って、被相続人が生前に所有していたものは、各相続人が、相続分に応じて権利を承継することになります。
この理屈からすると、先祖の墓地や墓石なども、相続人が、各自の相続分に応じて承継するようにみえます。

2 墳墓に関する承継

(1)民法の定める祭祀財産
民法第897条1項は、「系譜、祭具及び墳墓の所有権は前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべきものが承継する。但し、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべきものがあるときは、その者が承継する。」と定めています。
「系譜」とは、家系図、過去帳など祖先の系統を示すもの、「祭具」とは位牌、仏壇、仏具、神棚など祭祀・礼拝の用に供する物をいい、「墳墓」は墓石だけでなくその素材する土地(墓地)の所有権や墓地使用権を含むとされています。


なお、墓地の所有権は、お墓を購入した者が所有するのではなく、墓地・霊園などの運営主体が所有するものが殆どです。
「お墓を買った」という話から、墓地まで所有権を取得したように思われるかもしれませんが、墓石の所有権は取得しますが、墓地については使用権であることが多いと思われます。

なお、遺体や遺骨については、判例は祭祀承継者に帰属するとしています。(最判平成1年7月18日)

(2)民法の定める祭祀財産の承継
この規定から分かることは、第1に、祭祀財産は遺産分割の対象財産ではない、ということです。
祭祀財産は遺産分割よって相続人が取得するのではなく、祖先の祭祀を主宰する者が承継します。
第2に、「祭祀を主宰すべき者」の資格に制約がなく、相続人かどうかは問いませんし、氏の異動も問いません。
第3に、「祭祀を主宰すべき者」は、被相続人が指定できる
ということです。
この指定は遺言でもできますが、生前行為でもすることができます。

3 祭祀財産の承継と代償金の要否

このように、祭祀財産の承継は遺産分割とは別のものであり、相続人以外の者でも承継できるものです。
祭祀の承継者以外の相続人に相続分が認められるものではありませんので、祭祀財産を取得したからといって、代償金の支払いが必要になるものではありません。
因みに、地方公共団体の条例、例えば、東京都霊園条例では、使用者の承継については、次のように定めています。

(使用者の地位の承継)
第19条 埋蔵施設又は収蔵施設の使用者の死亡その他規則で定める場合において、当該使用者に代わって当該施設を引き続き使用しようとする者は、当該使用者の地位を承継することができる。但し、埋蔵施設、長期収蔵施設又は短期収蔵施設の使用者の地位を承継しようとする者は祖先の祭祀を主宰する者でなければならない。
2 前項の規定により使用者の地位を承継しようとする者は、遅滞なく知事に申請し、 その許可を受けなければならない。

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