弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2024/07/10

共働きで買った夫名義の自宅の遺産分けは?

Q 夫が亡くなりました。
私達夫婦には子はなく、夫の両親も既に他界していますが夫には3人の兄弟がいます。
夫の遺産は、わずかな預金の外は、私達夫婦が住んでいた自宅の土地建物だけです。

夫の兄弟達からは、自宅の土地建物のうち、3兄弟の相続分に相当する物か金銭を渡してほしいと言われていますが、自宅の土地建物は夫と長年にわたり看護師をしてきた私が共働きで買ったものです。
名義は夫単独となっていますが、私も半分くらいのお金は支出しています。
それでも夫の単独名義にしていた以上は、夫の兄弟に対して、法律が定めている相続分の割合で分割しなければならないのでしょうか。


(1)夫の相続人

民法は、相続人が誰になるかについて、配偶者は常に相続人になると定めています。
同時に、民法は、配偶者相続人のほかに血族相続人(被相続人の血族で、順位に従って相続人となる者)を定めており、配偶者と血族相続人の組み合わせで相続人が決まります。

第1順位は被相続人の子、その直系卑属(孫、ひ孫等)、第2順位は、被相続人の直系尊属(被相続人の両親)、第3順位は被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっているときは、その子)となります。
ご質問のケースでは第1順位、第2順位の相続人がいませんので、第3順位の夫の兄弟が相続人となります。

(2)各相続人の相続分(相続財産に対する権利割合)

民法は、

①配偶者と第1順位の血族相続人の組み合わせの場合、配偶者が2分の1,子が2分の1
②配偶者と第2順位の血族相続人の組み合わせの場合、配偶者が3分の2,直系尊属が3分の1
③配偶者と第3順位の血族相続人の組み合わせの場合、配偶者が4分の3,兄弟は4分の1と定めています。

民法の定める相続人と各自の相続分に関する規定に従えば、夫の兄弟はご自宅の土地建物の4分の1の権利を行使できるようにみえます。
しかし、ご自宅の土地建物は妻も働き、購入資金の一部を負担しているのですから、名義は夫単独であったとしても実質的には妻の所有部分もあるはずです。
このような場合に備えて、民法では、相続人が寄与して形成された考えられる分を「寄与分」といい、相続財産から寄与分を差し引いた残りが、被相続人の相続財産と考えます。
本ケースでは、この寄与分を差し引いた残りを配偶者と兄弟3人が法定相続分で分割することになります。

仮に、夫名義の財産の内、妻の寄与を半額と捉えると、夫の相続財産から妻の寄与分を差し引いた残りである、夫名義の財産の2分の1が各相続人の権利の対象となります。
従って、妻は寄与分の2分の1と、夫の実質的な相続財産である2分の1に妻の法定相続分である4分の3を乗じた額の合計、すなわち、夫名義の遺産の8分の7を取得します。

兄弟は妻の寄与分を差し引いた残りの2分の1の財産に4分の1を乗じた額、つまり3人合計で夫の実質的な相続財産である2分の1に法定相続分である4分の3を乗じた額の合計、夫名義の遺産の8分の1(兄弟各自が相続するのは、その3分の1の24分の1)となります。
妻は3人兄弟に対し、各自に遺産の24分の1の財産を渡せば済むということになります。

そうはいっても妻にとっては大変な負担となります。
このような問題を生じさせないためには、夫が生前に、自己の遺産は全て妻に相続させるという遺言を残しておくことです。
民法には遺留分(遺言でも生前贈与でも奪うことのできない相続人の最低限の取り分)が定められていますが、第三順位の血族相続人には遺留分が認められていないため、この遺言は100%その通りに実現できるからです。

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