院長/認知症サポート医

医療法人すずらん会たろうクリニック

内田 直樹

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡市東区)院長、精神科医。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院勤務を経て、2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めた後、2015年より現職。
日本在宅医療連合学会評議員、日本老年精神医学会専門医・指導医、認知症の人と家族の会福岡支部顧問、福岡市在宅医療医会理事、NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク理事、など。精神保健指定医。「認知症の人に寄り添う在宅医療」他、著書・寄稿多数。福岡県福岡市東区名島1-1-31/TEL 092-410-3333

この執筆者の過去のコラム一覧

2024/08/10

第15回 医療分野におけるAIの活用について

数回前に認知症フレンドリーテックについて取り上げましたが、今回は医療分野におけるAIの活用についてお書きします。

急速に拡がり始めたAI(人工知能)

2022年の11月にChatGPT3.5が一般に公開され、その後AIが話題に上がることがずいぶん増えました。読者の皆さんもChatGPTという言葉を聞いたことがない方はいらっしゃらないのではないでしょうか。

一方で、
「聞いたことがあるけど実際に使ったことはない」
「何度か使ってみたけど、回答結果がイマイチでその後使っていない」
「毎日のように使っている」
というように、ChatGPTの活用程度について立場は様々でしょうし、
「最近はChatGPTではなくてClaudeを使うことが増えた」
というAIに詳しい方もいらっしゃるかと思います。

私自身は、2021年からプログラミングを学び始めてウェブエンジニアの人たちとの繋がりがあったこともあり、ChatGPT3.5が公開された当初から触れていました。
その後、2023年の3月に「ChatGPTが新着論文を要約し毎朝メールしてくれる仕組みの作り方」をスライドにまとめたところ、一部で大きな話題となりました。
こういった経緯もあり、最近はAIについて講演する機会も増えています。

医療現場での活用が視野に

医療分野におけるAIの活用というと、Googleが開発した医療特化型AIであMed-Geminiが最近話題になっています。
米国の医師国家試験を解かせたところ91.1%の正答率だった上に、問題の7.4%が不適切だと指摘したとのことで、不適切問題を除くとMed-Geminiの正答率は99.2%でした。

胸部レントゲンや心電図を判読できるだけでなく、手術動画をみせると手術の手技について評価をすることもできるということで、テキストだけでなく画像、音声、動画も理解することができます。
また、自身で判断できないことは自らGoogle検索して回答を行うという仕様になっています。

まだ一般公開はされていませんが、研究パートナーである大病院で実証を行なっている段階ということで、近い将来実際の医療現場で使用することができそうです。

民主化途上にあるAIの活用

一方で、医療現場におけるAIの活用については、いくつかの課題もあります。
一つは、ハルシネーション(捏造)と言われる、AIが平気で嘘をつくという点です。
質問に対してAIはそれらしい文章を作成するものの、その回答が必ずしも正しいとは限らないため、重大な失敗が命につながる医療分野においてはハルシネーションが見逃せないことが大きな課題になります。

もう一点は、プライバシーに関することです。
医療情報というのは、個人情報の中でも特に取り扱いに注意が必要な情報になります。
AIに投げかけた情報をどう取り扱われるかわからないという現状において、個人情報をAIに渡すことのリスクが評価できないというのも大きな課題になっています。

こういった中、佐賀にある織田病院では、外部ネットワークへの接続を必要としない環境でAIとカルテを繋ぎ、セキュリティを保ったままAIを活用して医療従事者の業務負担を減らそうという取り組みを始めていて、私も注目しています。

医療分野は、他の業種と比べても一般に保守的と言われ、新しい技術の活用が進みにくいのが現状です。
しかし、今後様々な場面でAIの活用が進むことは間違いがなく、AIの民主化が進んでいきそうです。医療分野が取り残されないよう、私自身は積極的にAIを活用していきたいと考えています。

すべての著作権は(株)大洋不動産に帰属しています。無断転載は固くお断りいたします。