院長/認知症サポート医

医療法人すずらん会たろうクリニック

内田 直樹

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡市東区)院長、精神科医、医学博士。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院勤務を経て、2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めた後、2015年より現職。
日本在宅医療連合学会専門医・指導医・評議員、日本老年精神医学会専門医・指導医・評議員、認知症の人と家族の会福岡支部顧問、福岡市在宅医療医会副会長、NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク常任理事、など在宅医療や認知症に関する役職多数。近著に「早合点認知症」(サンマーク出版)がある。
福岡県福岡市東区名島1-1-31
TEL 092-410-3333

この執筆者の過去のコラム一覧

2025/08/10

帯状疱疹ワクチンは認知症予防の新たな選択肢となるか

認知症予防はしばしばメディアで取り上げられますが、その内容は「特定の食品で予防」など科学的根拠に乏しいものがほとんどです。
そのような中、帯状疱疹ワクチンが認知症の発症リスクを低減する可能性を示唆する研究結果が相次いで報告され、注目されています。

海外研究から見える認知症リスク低減の可能性

英国ウェールズでの約110万人対象のコホート研究では、帯状疱疹生ワクチン接種により、7年間での認知症新規診断リスクが約20%相対的に低下し、特に女性で効果が顕著であったと報告されました。オーストラリアの全国予防接種プログラムのデータを用いた研究や、米国の保険データベースを用いた不活化ワクチンの研究でも同様に、帯状疱疹ワクチン接種による認知症リスク低減が示唆されており、ワクチンの種類を問わず認知症予防の可能性を示す結果が一貫して得られている点は注目に値します。

考えられる作用機序と今後の研究課題

帯状疱疹ワクチンによる認知症リスク低減の機序として、主に二点が考えられます。

第一に、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化抑制によるウイルス起因の直接的な神経障害や慢性的な神経炎症の回避です。
第二に、ワクチン接種による免疫賦活化が脳内のアミロイドβなど異常タンパク質の除去を促進する「オフターゲット効果」や免疫系の再調整の可能性です。
しかし、これらの多くは観察研究であり、背景因子の違いや診断の正確性などが結果に影響した可能性は否定できません。

政策面・社会的な視点

政策面では帯状疱疹ワクチンの重要性が認識され、2025年4月1日から帯状疱疹ワクチンが定期接種に含まれ、65歳以上の方への公費による補助が開始されました。
また、福岡市を含め、自治体によっては50歳以上を対象とした費用助成を実施しているところもあります。
これにより高価な不活化ワクチン接種の自己負担が軽減され、接種率向上が期待されます。

ワクチンの種類による違い

帯状疱疹ワクチンは生ワクチンと不活化ワクチンがあり、どちらを打とうか悩まれている方もいらっしゃるかもしれません。

生ワクチンは一回の接種で効果があり不活化ワクチンよりも安価である一方、不活化ワクチンの方が帯状疱疹に対する予防効果が高く、効果の持続期間も長いことがわかっています。

一方、ワクチン接種による副反応の頻度は不活化ワクチンの方が高いようです。
また、認知症予防効果についても、論文上では不活化ワクチンの方が高い効果を示しています。

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