ファイナンシャルプランナー

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久保 逸郎

老後のお金の不安を解消する、ライフプランと資産運用&資産管理の専門家
「90歳まで安心のライフプラン」を合言葉にして、豊かな人生の実現に向けたライフプラン作りの支援を行っている。
独立から約15年にわたり相談業務を中心に実務派ファイナンシャルプランナーとして活動する傍ら、ライフプランや資産運用などのお金のことについて年間100回近い講演や、マネー雑誌やコラム等の原稿執筆を行うなど幅広く活動中。

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2026/02/10

「金利ある世界」へのパラダイムシフト―日本国債急騰の舞台裏を読み解く

2026年1月、日本の金融市場は歴史的な転換点に立たされています。
これまで「低金利の継続」を前提としていた日本の投資環境において、超長期債を中心に利回りが急騰し、40年物国債利回りが4%の大台を突破するという、これまでの常識を覆す事態が起きているためです。

資産運用のプロの視点から、今マーケットで何が起きているのか、その深層を解説します。

1.「1月の解散サプライズ」と財政規律への不信

今回の金利上昇の直接的なトリガーとなったのは、高市首相による電撃的な衆議院解散の表明です。
1月に解散が行われるのは自民党結党以来わずか2回目という異例の事態であり、次年度予算の審議遅延という政治空白リスクを伴うものでした。

しかし、市場が最も動揺したのは、解散に伴う「食料品の消費税減税(2年間の時限措置)」の示唆です。

財源なき減税への警戒
約5兆円規模の減税に対し、具体的な財源が示されないまま「国民会議での議論」に委ねられたことで、市場は「国債発行による借金での穴埋め」を強く意識しました。

「出口」の見えない時限措置
一度導入された減税をインフレ下で再び引き上げることの難しさを市場は知っており、これが日本の財政健全性に対する強い不信感へとつながりました。

2.需給の崩壊――「買い手」が消えた債券市場

金利が急上昇したもう一つの要因は、超長期国債の需給バランスが極めて脆弱だったことです。

通常、日本の超長期債の安定的な買い手は生命保険会社(生損保)でしたが、現在は25年度からの新健全性規制への対応から購入を控えており、12月時点でも売り越しに転じています。

有力な買い手の不在
足元で国債を買っているのは、金利上昇局面で一時的なポジションを持つ海外投資家や信託銀行などに限られており、安定的な購入層が欠落しています。

弱い入札結果
1月20日に行われた20年債入札では、応札倍率が3.19倍と、過去1年の平均(3.34倍)を下回る厳しい結果となりました。
これは、投資家がさらなる金利上昇を恐れて「買い」を控えている実態を浮き彫りにしています。

<日本の長期金利推移>

データ出所:TradingView

3.金融政策ではなく「財政不安」による金利上昇

特筆すべきは、今回の金利上昇が「日銀の利上げ予見」によるものではないという点です。
金融政策を反映しやすい2年物国債の利回りは比較的安定しているのに対し、30年、40年といった超長期債の利回りだけが突出して跳ね上がっています。
これは、日銀のコントロールが及びにくい「日本の財政そのものへのプレミアム」を市場が要求し始めたことを意味しており、非常に重い変化です 。

さらに、米国トランプ大統領によるグリーンランド領有示唆や関税威嚇といった外部要因も、世界的なインフレ懸念と国債売却の動きを加速させ、日本の金利上昇に拍車をかけています。

4.日銀・植田総裁の最新スタンスと今後の焦点

この緊迫した状況を受け、日本銀行の植田和男総裁は1月23日の記者会見で、マーケットの変動に強い警戒感を示しました。
今後の投資環境を占う上で、以下のポイントが極めて重要になります。

・警戒レベルの引き上げ

植田総裁は、金利が「かなり速いスピードで上昇してきている」と言及しました。
昨年12月時点の「やや速い」という表現から一段階踏み込んでおり、現状のボラティリティを深刻に受け止めていることが伺えます。

・機動的なオペの可能性

植田総裁は「例外的な状況では機動的にオペ(国債買い入れ操作)を実施することもある」と明言しました。
これまで財政起因の金利上昇への介入には慎重と見られていましたが 、市場の混乱を抑えるために政府と緊密に連携する姿勢を強調しています。

・財政健全化への釘刺し

与野党が消費税減税を打ち出す中、総裁は「政府が中長期的な財政健全化について市場の信認を確保することは極めて重要だ」と述べ、政治サイドにマーケットへの配慮を求める異例の発言を行いました。

資産運用において、金利はすべての資産価値を計る「物差し」です。
その物差し自体が大きく揺れ動いている今、これまでの「金利なし」を前提とした投資モデルからの脱却が求められています。

今回の激動は、日本経済が財政規律とどう向き合うのかを問う、市場からの警鐘とも言えるでしょう。
投資家の皆様におかれましては、政治の動向と債券市場の需給変化を注視し、ポートフォリオのリスク管理を再点検すべき重要な時期にあります。

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