弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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2026/04/10

自社株式を保有している被相続人の相続対策

私は、父が50年前に創業した会社に入社して専務として働き、父が死亡した際には、相続人は母と長男の私と長女である妹の3人でしたが、父名義の100%の株式のうち、母30%、後継者となった私が70%を相続するとともに、会社に賃貸していた土地建物も私が相続し、妹は父親の所有していたアパート等を相続したのですが、この度、母の病が重くなり、万一のことを考える必要が出てきました。

母は会社のことを考えて遺言をすることを考えており、自分が相続した30%の会社株式を全て私に相続させるとの遺言を考えているとのことでした。

今後のことを考えると、私もそれが一番よいようにも思うのですが、何か検討しておくべきことはあるのでしょうか。


1 遺言の効力と遺留分

相続の効力について、民法第985条は「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。」と定めています。
御母様が、自分の保有する自社株の30%を全て御長男の方に相続させるという内容の遺言をすれば、御母様が死亡された時に、文字通り、御母様の保有しておられた自社株の30%は全て御長男の所有となります。

アメリカやイギリスなどの英米法系の法制度の国では、原則として、遺言はオールマイティですから(一部例外はあるようです。)、遺言書に、御長男に母親の保有する自社株を全て相続させるという遺言があれば、そのとおりに、御長男が30%の株式を保有し、それで相続は完了してしまいます。

しかし、わが国の相続法は大陸法系ですので、そのような遺言があったとしても、相続人には、例え遺言や生前贈与があっても、すべてが遺言通りになるわけではなく、最低限の相続人の取得分として「遺留分」という制度が設けられています。

2 相続法改正前の「遺留分減殺請求」の制度

2019年7月1日に施行された改正民法までは、遺留分については、遺留分を有する相続人は、当該相続人の遺留分を侵害している相続人に対して、遺留分減殺請求ができると定めていました。

遺留分は全ての相続人に認められるわけではなく、兄弟姉妹以外の相続人に認められています。
遺留分の割合は、被相続人の両親等の直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合には被相続財産の2分の1とされています。

 

遺留分減殺請求権を行使すると、御長男が相続した御母様の保有した自社株30%のうち、御長女の遺留分を確保するために必要な財産
(つまり遺留分の対象財産は相続財産の2分の1、御長女の相続分は2分の1ですから、1/2×1/2=1/4が御長女の遺留分割合となります。)
の範囲で遺言の効力が失効します。

つまり、30%の株式のうち、その4分の1の7.5%の株式については遺言の効力が失われ、7.5%の株式は御長女が取得することになります。

 

ここで問題となるのは、中小企業等の非上場株式の評価額です。
非上場株式は市場がありませんので、実際には客観的取引価格が不明です。

そこで、株価の鑑定をすることになるのですが、現在の非上場株式の鑑定価額は、いわゆる類似業種比準方式と純資産方式の双方を用いて算定するのですが、その評価額は会社によっては、同じ業種の上場企業の数百倍にも上ることがあります。

改正前の民法の遺留分のように、遺留分減殺により4分の1の株式を取得する制度であれば、御長男としては、4分の1の株式を買い取ることを請求することもできますし、株価が高ければ4分の1の株式をご長女に交付することで金銭の支出を抑えることも可能でした。

 

3 遺留分減殺請求権から、「遺留分侵害額請求権」へ

ところが改正後は遺留分に関する権利は減殺請求ではなく、遺留分侵害額請求権に変更されました。つまり遺言に記載されたとおりに30%の株式は全て長男が保有、長女は侵害された「遺留分に相当する金銭」を請求できるだけということになりました。
その結果、長女が侵害額(7.5%の自社株相当額)を具体的に明示して請求するとなると、物を渡すということなります。
これは代物弁済と同じ状態であり、税務上の扱いは「いったん株式等を売却して弁済に充てたもの」として、譲渡所得税が課税されることになります。

従って、遺留分侵害額請求制度のもとでは、自社株の評価がいくらになるのか、高額になる場合には、自社株の一部を現物で御長女に相続させるという遺言にするのか、それとも全て御長男に相続させるのかを、今一度、検討しておくことが必要になることにご注意下さい。

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