弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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この執筆者の過去のコラム一覧

2017/07/10

長年にわたり親と同居して世話をした子の寄与分

Q 母が死亡した後、3人の子のうち私だけが約30年の間父親と同居し、父の食事の準備や日常の世話を行ってきました。
私は次女で、姉と弟がいますが、二人とも別に家を構えており、姉は仕事をもって海外で活躍し、弟もサラリーマンで仕事が忙しいらしく、2人とも、実家を訪ねてくるのは稀ですし、訪ねてきたときでも少し父と話をした後は、父から小遣いを貰って帰るような関係でした。

この度、父が亡くなったのですが、姉と弟は3分の1ずつ財産を分けようと言っています。
被相続人の世話をした相続人には寄与分が認められて他の相続人より多く遺産を受け取る権利があると聞いた
のですが、私の場合には、どれくらいの寄与分が認められるのでしょうか。

1 寄与分制度

寄与分とは民法で認められている制度です。
民法は、「子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。」(民法第899条)と定めています。つまり、被相続人が死亡した場合、子が複数いる場合は子らの相続分は均等とされています。
従って子が3人の場合には、相続分は各自3分の1ですので、他の兄弟が求めているのはこれを根拠にしています。

ただし、民法には「寄与分」が規定されています。
寄与分について、民法は、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算出した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」(民法第904条の2)と定めています。

2 親の世話をした子の寄与分

寄与分は、「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるとき」に認められるものですので、被相続人に資金、資産を提供したり、被相続人の借財を弁済した場合のように、被相続人への財産の給付が行われた場合に認められることは明らかですが、ただ単に、被相続人の世話をしたという場合(食事等の世話の費用は父親の預金等から支払っているような場合)は、これによって被相続人の財産が維持されたり、増加することはありませんから、少なくとも療養看護をしたことにより被相続人が費用の支出を免れ、被相続人の財産の維持または減少の防止がなされたということが必要になります。

また、寄与分が認められるためには、「特別の寄与」が必要とされていますので、親族としての身分関係から当然なすべきと考えられているような日常の世話は該当しないと解されています。このため寄与分は親の日常生活の世話をした子には認められないことも少なくありません。
しかし、これでは感情面で納得できないという部分が残ります。

どうしても長年世話してくれた子に報いたいと考えるのであれば、被相続人が遺言を残して世話をしてくれた子の相続分を増やしておくことが必要になります。

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