弁護士

江口 正夫

1952 年生まれ、広島県出身。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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この執筆者の過去のコラム一覧

2017/10/10

借金はどのように相続すればよいか

Q 父が亡くなりました。
母は既に他界しており、私と弟の2人で父の財産を相続することになりました。
父の財産は自宅の土地建物とアパートを経営している土地建物が主な物です。

兄弟で相談した結果、自宅の土地建物は長男の私が引き継ぎ、アパート用の土地建物は次男が相続することにしたいと思っています。そこで、遺産分割協議書を作成しようと思っていますが、未だアパート建築の際の父名義の建築費のローンが6000万円ほど残っております。

これまでもアパートの家賃からローンを支払っておりますので、アパートを相続する次男がアパートの借金も相続すると遺産分割協議書に書いておけば、問題はないでしょうか。

1 借金の相続で留意すべきこと

被相続人が自ら経営していたアパートを相続人に相続させようとする場合に、アパート建築の際のローンが残っているときは、そのローンは家賃から支払っているのが通常ですから、アパートを相続した者がアパートローンの支払義務も相続するのが当たり前だ、というのが我々の常識的な感覚だと思います。

しかし、借金の相続は、我々の常識的な感覚と少し異なるところがあるので注意が必要です。
何故なら、借金のような債務は分けることが可能ですから、「可分債務」(カブンサイム)と言うのですが、法律上は、可分債務は遺産分割の対象ではなく、当然分割であるとされているからです。

当然分割とは、被相続人の死亡により遺産分割協議を経るまでもなく、当然に分割されているという意味です。
これを遺産分割協議言を作成することにより相続人のうちの誰か一人に借金を相続させることが出来るかといえば、そのようなことは認められていないのです。

何故なら、借金を誰が支払うのかということは、借金の債権者(アパートローンの場合は通常は金融機関)にとって重大な利害関係を有する事柄ですから、債務者の側が勝手に債務の支払人を決めることは出来ないのです

2 借金の相続の仕方

遺産分割協議で借金の相続人を決定したとしても、それだけでは銀行に対しては通用しません。
銀行は、借金については当然分割を主張して、各相続人に対して、6000万円の借金の各自の相続分、つまり長男に3000万円、次男に3000万円を請求できるのです。
これではアパートを相続しない長男も、アパートを相続した次男と全く同じ額の借金が相続されたことになります。

アパートを相続していない長男に借金を負わせないためには、分割協議書の外に、債権者(金融機関)の了解を取り付けることが必要になります。

そのためには、長男が負担するはずの3000万円の支払債務を次男が引き受けて、長男の負担をゼロにして免責するという手続きが必要になります。
これは銀行と相続人との間で契約を締結することにより行うことができます。

これを「免責的債務引受契約」というのですが、金融機関はこの契約書のひな形をもっていますので、金融機関と協議することになります。

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