2018/03/10
少し先の未来まで
不動産と相続のアドバイザー、小峰裕子です。
民法が120年ぶりに大改正されます。スタートは2020年4月1日、2年後です。
そこで賃貸不動産を所有するオーナーが「決して見過ごしてはいけない民法改正点」だけ、心の準備がてら不定期ですが取り上げてみることにしました。
改正後の世界
時は2025年春、大洋太郎さん(58歳)は、数棟の木造貸家を所有しています。
築40年と古いですが、立地も良く入居も安定しているので満足しています。そんな大洋太郎さんに1通の封書が届きました。
差出人は1年前に入居した賃借人からでした。封を開けた太郎さんは驚きました。中には手紙に添えて50万円の請求書が同封されていたからです。
手紙にはこう書かれていました。
「1ヶ月前、台所の流し台の下から水漏れがするので修繕して欲しいと連絡をしたのに、10日過ぎても対応してもらえませんでした。炊事にも支障があるので、自分で業者を探して修繕を依頼しました。その時の請求書を同封したので支払いはオーナーでお願いします」。
大洋太郎さんは請求の内容を見てさらに驚きました。
流し台が高額なシステムキッチンに取り替えられていたからです。
確かに台所の水漏れについては聞いており、古くからのメンテナンス業者に手配をお願いしていました。しかし当の業者から「今、手が回らないので少し待っていて欲しい」と言われ、入居者にもそう伝えていたはずです。
それなのに50万円の請求とは何ごとでしょう。
流し台も「取り替えではなく修繕で済んだのではないか」取り替えが必要だったとしても「システムキッチンである必要」はないし、そもそも「本当に修繕が必要だったのか」さえ、わからないではないか!と大洋太郎さんは冷静になろうとすればするほど混乱し、手紙を握りしめたまましばらく立ち上がることが出来ませんでした。
修繕権という権利が明文化される
賃借人である入居者から居室内のクレームがあれば、賃貸人であるオーナーは当然善処すべきですし、民法にその定めもあります。
しかし、「入居者が修繕しても良い」とは書いてありません。他人の所有物に勝手に手を加えることはできないからです。
ところがです。
今回改正のメスが入りました。
つまり、オーナーが修繕の必要を知ったにも関わらず相当期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは急迫の事情がある場合には、賃借人が自ら修繕できると明文化されることになったのです。
「賃借人の修繕権」です。(民法607条の2)
改正後は、修繕権を基にしたオーナーと入居者とのトラブルが増えるおそれがあります。
トラブルを未然に防ぐため、取り組むべきは次の4つです。
1.クレームの連絡を受けたら、一両日中に状況を自分の目で確かめ、入居者本人から原因について説明を受けましょう。
原因が入居者にある場合は、当然ですが修繕費用は入居者負担です。
2.メンテナンス業者とその場で連絡を取り、状況を説明して日程の調整をしてしまいましょう。
入居者を前にして行うことで、対応を放置しない姿勢を示します。
3.業者から説明を受け発注しますが、交換や新設が必要な時は同等の物か確かめます。
4.契約書の見直し。
1~3はいずれもスピーディーに、スムーズに行われなければ問題が起こり、複雑化します。
メンテナンス業者とのコミュニケーションは出来ていますか?
レスポンスは早いですか?
管理会社に管理を依頼しているなら、1~3が出来ているかを報告書などで確認すべきです。
そして最後は契約書の見直しです。改正後は、今以上に契約が大切になります。
特約という約束をしよう
先々、大洋太郎さんも貸家の入居者に安全性を理由に退去を願い出ることもあるでしょう。
もし入居者から反対に大規模修繕を求められ、修繕権を立てに勝手に工事をされたら...。
「修繕権を有するのは小規模修繕に限る」などの特約を盛り込み、大規模修繕は修繕権の対象外であることを明記しておくべきです。
ただし、消費者契約法では賃貸業のオーナーは事業者とされ、入居者にとって不当な特約は無効になります。
十分な検討が必要です。
「勤勉な債権者は救われる」本コラムの法務編を担当して頂いている、江口正夫弁護士に教えて頂いた一節です。
汗をかいて自分が(オーナーが)守られるように契約の内容を作っていくこと、要は一生勉強ということですね。
改正まであと2年、少し先の未来まで汗をかき続けます。
どうかのんびりお付き合いください。
不動産と相続のアドバイザー、小峰裕子です。
民法が120年ぶりに大改正されます。スタートは2020年4月1日、2年後です。
そこで賃貸不動産を所有するオーナーが「決して見過ごしてはいけない民法改正点」だけ、心の準備がてら不定期ですが取り上げてみることにしました。
改正後の世界
時は2025年春、大洋太郎さん(58歳)は、数棟の木造貸家を所有しています。
築40年と古いですが、立地も良く入居も安定しているので満足しています。そんな大洋太郎さんに1通の封書が届きました。
差出人は1年前に入居した賃借人からでした。封を開けた太郎さんは驚きました。中には手紙に添えて50万円の請求書が同封されていたからです。
手紙にはこう書かれていました。
「1ヶ月前、台所の流し台の下から水漏れがするので修繕して欲しいと連絡をしたのに、10日過ぎても対応してもらえませんでした。炊事にも支障があるので、自分で業者を探して修繕を依頼しました。その時の請求書を同封したので支払いはオーナーでお願いします」。
大洋太郎さんは請求の内容を見てさらに驚きました。
流し台が高額なシステムキッチンに取り替えられていたからです。
確かに台所の水漏れについては聞いており、古くからのメンテナンス業者に手配をお願いしていました。しかし当の業者から「今、手が回らないので少し待っていて欲しい」と言われ、入居者にもそう伝えていたはずです。
それなのに50万円の請求とは何ごとでしょう。
流し台も「取り替えではなく修繕で済んだのではないか」取り替えが必要だったとしても「システムキッチンである必要」はないし、そもそも「本当に修繕が必要だったのか」さえ、わからないではないか!と大洋太郎さんは冷静になろうとすればするほど混乱し、手紙を握りしめたまましばらく立ち上がることが出来ませんでした。
修繕権という権利が明文化される
賃借人である入居者から居室内のクレームがあれば、賃貸人であるオーナーは当然善処すべきですし、民法にその定めもあります。
しかし、「入居者が修繕しても良い」とは書いてありません。他人の所有物に勝手に手を加えることはできないからです。
ところがです。
今回改正のメスが入りました。
つまり、オーナーが修繕の必要を知ったにも関わらず相当期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは急迫の事情がある場合には、賃借人が自ら修繕できると明文化されることになったのです。
「賃借人の修繕権」です。(民法607条の2)
改正後は、修繕権を基にしたオーナーと入居者とのトラブルが増えるおそれがあります。
トラブルを未然に防ぐため、取り組むべきは次の4つです。
1.クレームの連絡を受けたら、一両日中に状況を自分の目で確かめ、入居者本人から原因について説明を受けましょう。
原因が入居者にある場合は、当然ですが修繕費用は入居者負担です。
2.メンテナンス業者とその場で連絡を取り、状況を説明して日程の調整をしてしまいましょう。
入居者を前にして行うことで、対応を放置しない姿勢を示します。
3.業者から説明を受け発注しますが、交換や新設が必要な時は同等の物か確かめます。
4.契約書の見直し。
1~3はいずれもスピーディーに、スムーズに行われなければ問題が起こり、複雑化します。
メンテナンス業者とのコミュニケーションは出来ていますか?
レスポンスは早いですか?
管理会社に管理を依頼しているなら、1~3が出来ているかを報告書などで確認すべきです。
そして最後は契約書の見直しです。改正後は、今以上に契約が大切になります。
特約という約束をしよう
先々、大洋太郎さんも貸家の入居者に安全性を理由に退去を願い出ることもあるでしょう。
もし入居者から反対に大規模修繕を求められ、修繕権を立てに勝手に工事をされたら...。
「修繕権を有するのは小規模修繕に限る」などの特約を盛り込み、大規模修繕は修繕権の対象外であることを明記しておくべきです。
ただし、消費者契約法では賃貸業のオーナーは事業者とされ、入居者にとって不当な特約は無効になります。
十分な検討が必要です。
「勤勉な債権者は救われる」本コラムの法務編を担当して頂いている、江口正夫弁護士に教えて頂いた一節です。
汗をかいて自分が(オーナーが)守られるように契約の内容を作っていくこと、要は一生勉強ということですね。
改正まであと2年、少し先の未来まで汗をかき続けます。
どうかのんびりお付き合いください。
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