2018/07/10
遺産遺留分減殺請求と12年前の贈与
Q 先日、父が亡くなりました。
母は5年前に亡くなっておりますので、父の遺産は長男、次男と、長女である私の3人の兄弟姉妹で相続することになります。
父の遺産は、銀行の定期預金と普通預金のほかには僅かな動産類しかなく相続税を支払う必要もありませんでしたが、元々父名義であった自宅の土地建物とアパート2棟が12年前に長男に贈与され、長男名義に登記がされていました。
父は昔気質の人でしたから、財産は長男が引き継ぐのが当然と考えていたのかもしれませんが、長男に贈与された自宅の土地建物とアパート2棟の価値は、父名義で残されていた上場企業数社の有価証券と銀行の定期預金と普通預金の10倍以上もあり、私としては納得がいきません。
このような場合に、贈与も受けていない相続人を保護してくれる制度はないのでしょうか。
それとも、10年以上も前に贈与され、贈与税も支払われている以上、仕方がないのでしょうか。
1 遺留分減殺請求権
御父様が御長男に不動産を贈与し、贈与税も支払われているのであれば、贈与された自宅の土地建物とアパート2棟は既に御長男の所有物となっていますので、これらは御父様の相続財産ではないことになります。
死亡の時点で御父様の所有物ではないからです。税務上の取扱いも、原則として、既に贈与された自宅の土地建物とアパート2棟は相続税の計算からは切り離されて処理されています。
しかし、だからといって、残された銀行の定期預金と普通預金、僅かな動産類を次男と長女が取得したとしても、亡御父様が元々所有していた財産の殆どは御長男が取得してしまう結果になってしまいます。
そこで、相続法においては、このような場合、次男と長女の方の最低限の取得分として「遺留分」(イリュウブン)を認め、最低限の取得分である遺留分を侵害された相続人(次男と長女)は、遺留分を侵害した相手方(長男)に対し、遺留分に足りるまで、侵害行為(生前贈与)を減殺(ゲンサイ)請求をして、取り戻すことができるものと定めています。
2 遺留分の算定方法
遺留分は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、その贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除してこれを算定する。」(民法1029条1項)と規定されていますが、同時に「贈与は、贈与開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。」(民法第1030条)とも規定されています。
この規定からすると、12年も前に贈与された自宅の土地建物とアパート2棟の土地建物は、「相続開始前の1年間にしたもの」には該当しないので、遺留分の計算に算入されないかのようにも読めます。
しかし、わが国の判例では、共同相続人の一人に対し婚姻、養子縁組のため、若しくは生計の資本としてなされた贈与の場合(これを「特別受益」といいます。)には、1年前か否かを問わず、また、遺留分侵害の意図があったか否かを問わず、遺留分算定基礎財産に算入されると判断されています(最判昭和51年3月18日)。
相続人に対する特別受益となる贈与は、たとえ12年前の生前贈与であっても、原則として遺留分の計算に加算できるということに留意して下さい。
Q 先日、父が亡くなりました。
母は5年前に亡くなっておりますので、父の遺産は長男、次男と、長女である私の3人の兄弟姉妹で相続することになります。
父の遺産は、銀行の定期預金と普通預金のほかには僅かな動産類しかなく相続税を支払う必要もありませんでしたが、元々父名義であった自宅の土地建物とアパート2棟が12年前に長男に贈与され、長男名義に登記がされていました。
父は昔気質の人でしたから、財産は長男が引き継ぐのが当然と考えていたのかもしれませんが、長男に贈与された自宅の土地建物とアパート2棟の価値は、父名義で残されていた上場企業数社の有価証券と銀行の定期預金と普通預金の10倍以上もあり、私としては納得がいきません。
このような場合に、贈与も受けていない相続人を保護してくれる制度はないのでしょうか。
それとも、10年以上も前に贈与され、贈与税も支払われている以上、仕方がないのでしょうか。
1 遺留分減殺請求権
御父様が御長男に不動産を贈与し、贈与税も支払われているのであれば、贈与された自宅の土地建物とアパート2棟は既に御長男の所有物となっていますので、これらは御父様の相続財産ではないことになります。
死亡の時点で御父様の所有物ではないからです。税務上の取扱いも、原則として、既に贈与された自宅の土地建物とアパート2棟は相続税の計算からは切り離されて処理されています。
しかし、だからといって、残された銀行の定期預金と普通預金、僅かな動産類を次男と長女が取得したとしても、亡御父様が元々所有していた財産の殆どは御長男が取得してしまう結果になってしまいます。
そこで、相続法においては、このような場合、次男と長女の方の最低限の取得分として「遺留分」(イリュウブン)を認め、最低限の取得分である遺留分を侵害された相続人(次男と長女)は、遺留分を侵害した相手方(長男)に対し、遺留分に足りるまで、侵害行為(生前贈与)を減殺(ゲンサイ)請求をして、取り戻すことができるものと定めています。
2 遺留分の算定方法
遺留分は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、その贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除してこれを算定する。」(民法1029条1項)と規定されていますが、同時に「贈与は、贈与開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。」(民法第1030条)とも規定されています。
この規定からすると、12年も前に贈与された自宅の土地建物とアパート2棟の土地建物は、「相続開始前の1年間にしたもの」には該当しないので、遺留分の計算に算入されないかのようにも読めます。
しかし、わが国の判例では、共同相続人の一人に対し婚姻、養子縁組のため、若しくは生計の資本としてなされた贈与の場合(これを「特別受益」といいます。)には、1年前か否かを問わず、また、遺留分侵害の意図があったか否かを問わず、遺留分算定基礎財産に算入されると判断されています(最判昭和51年3月18日)。
相続人に対する特別受益となる贈与は、たとえ12年前の生前贈与であっても、原則として遺留分の計算に加算できるということに留意して下さい。
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