院長/認知症サポート医

医療法人すずらん会たろうクリニック

内田 直樹

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡市東区)院長、精神科医。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院勤務を経て、2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めた後、2015年より現職。
日本在宅医療連合学会評議員、日本老年精神医学会専門医・指導医、認知症の人と家族の会福岡支部顧問、福岡市在宅医療医会理事、NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク理事、など。精神保健指定医。「認知症の人に寄り添う在宅医療」他、著書・寄稿多数。福岡県福岡市東区名島1-1-31/TEL 092-410-3333

この執筆者の過去のコラム一覧

2024/05/10

第13回 介護離職について

今回のテーマは介護離職です。
最近お願いされた経営者向けのある講演会で、認知症の話題に加えて介護離職についても話してほしいとのことで少し調べて考えてみました。

高まる経営者の関心

2022年の雇用動向調査によると、離職理由のうち「介護・看護」によるものは全体の0.9%と多くはありません。
しかし、50-54歳男性で1.8%、55-59歳男性で2.6%、50-54歳女性で1.8%、55-59歳女性で5.4%、60-64女性で3.4%と、ベテランおよび管理職における介護離職が多いため経営者の間で介護離職に対する関心が高いと想像しました。

また、以前はパートタイム職員の介護離職が多かったものの、最近は正規職員の介護離職が増えていることや、未婚者が増えており親の介護離職が増える可能性があることも背景にあるかもしれません。そこで講演の中では「介護離職を防ぐには」と題して、いくつかのポイントをお話しししました。

介護離職を防ぐ3つの方策

一つ目は、「親と将来の話し合いをしておくこと」です。
いつまでも親には元気でいてほしいと思うのは、私も含めた子どもの希望であり期待ですが、加齢に伴う老化を避けることはできません。
このコラムでも以前アドバンスケアプランニング(人生会議)について書きましたが、人生の最終段階にどういう医療やケアを受けたいか・受けたくないか、最後はどこで過ごしたいかなど、事前に話し合っておくことが重要です。

二つ目は、介護休暇と介護保険の利用です。
介護をしている雇用者の9割は介護休暇を利用していないというデータがあります。
介護を分割で取得できたり、半日単位など柔軟に利用できたりする制度があると離職率が下がるというデータもあるようで、ここは企業側の努力も必要です。

また、介護保険を早めに申請することもお勧めしました。
ちなみに、私が介護保険申請を躊躇される患者さんに介護保険利用をお勧めするときは、「今まで納めてきた税金を取り返すチャンスです」と説明します。

生活の質はパートナー次第~良いケアマネジャーの選びかた

三つ目は、ケアマネジャーの選定についてです。
介護保険をどう使用するかを相談するパートナーであるケアマネジャーですが、どういうケアマネジャーに担当してもらうかでその方の生活の質が大きく変わることを日々目の当たりにしています。
ぜひ、ケアマネジャーを選ぶという視点をお持ちください。

いいケアマネジャーかどうか見極めるポイントとして、「コミュニケーションを取れるか」を挙げました。
利用者さんの要望や環境についてじっくり聞いてコミュニケーションを取ってくださる方、さらには地域の様々な介護事業所とコミュニケーションをとって複数の選択肢を提案してくださる方をケアマネジャーとして選ぶこと、相談がしづらいと思えば躊躇せずケアマネジャーの変更を検討することも重要だと考えています。

介護離職の根底にある理由を考えよう

そして最後に経営者の皆さんにお伝えしたのは「介護離職は本当の理由ではないかもしれない」ということです。
職場が働きにくい、キャリアアップをしたいなど考えている方がそのままストレートに離職の理由を言えず、表面上は親の介護を理由に職場をさるということは少なくなさそうです。
介護離職を減らしたければ、従業員とも日頃からコミュニケーションを取ることが重要だと考えることをお話ししました。

ということでまとめると、介護離職を防ぐには、親と、ケアマネジャーと、そして従業員とコミュニケーションを取ることが重要と考えます。
とは言っても、私自身も経営者として人事労務に頭を悩ませることは少なくありません。
機会がありましたら、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。

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