【まごころ通信】 第52話 人の為  by小峰裕子

「小峰さん、自分のことやってる?」20年来の恩師とも言える先輩と、ひとしきり仕事の打ち合わせが終わったあと何気なく言われた言葉が忘れられません。先輩はこうも続けました。「人のことばかりやってちゃダメですよ」。

そんな風に自分の日常を考えてこなかった私は、苦笑いでその場をごまかしてみたものの、どうでしょうか。「人の為」と書いて「偽り」と読みます。誰かのために自分を犠牲にすることは偽りになるのでしょうか。

一時期、同業や知り合いのお子さんをお預かりしていた頃がありました。4年ほど社会人としての経験をしてもらい、皆さん我が社を卒業していきます。時間もお金も労力も相当使いますが、頼まれたからには責任を感じます。中には叱咤激励の甲斐あって、希望する大手某会社に滑り込ませた人もいました。ところがです。その人は相談もなく会社を辞めていました。一度も顔を出すことなく、頼んで来た方も偶然会った時に御礼を言われた程度で、今や付き合いもありません。「なんだなんだ?」しばらくして気づきました。いい人だと思われたい、感謝されて当然と思っている自分がそこにいました。その出来事から随分時間が経ちましたが、経験から人の為に何かするというのは大義名分というか口実のようなもので、美談でも何でもないと考えるようになりました。要は「したいからさせて頂く」「それが自分の幸せならやる」。答えはシンプルです。

かつての卒業生達は来た頃のあどけなさは消えて、すっかり立派になりました。6月は全員で結婚式に出席ですね。交流が続く彼らは大洋ファミリーの一員です。幸せをありがとう。彼らとの時間は間違いなく自分の為の時間でした。

大洋不動産社内報「こまめくん」第62号より抜粋