【まごころ通信】 第38話 こころの内なる物差し by小峰裕子

伊藤若冲(1716-1800)という江戸期の画家を知っていますか?昨年春、東京都美術館で生誕300年を記念した展覧会が催され、大変な人気ぶりでした。知人は入室まで2時間待ったそうですが、多くの人々の注目を集める画家だけに、一度は観てみたい気がします。

美術館や博物館という空間は、静謐で造りも贅沢に建てられています。若冲のように華々しい催しでなくても、鑑賞後にゆっくりお茶して、散策するだけでも気持ちが落ち着きます。時代を超えて残るものは紛れもない「本物」ですよね。美術に限らず、工芸品や音楽、舞台、演劇などすべてそうです。時代という圧力に負けない本物を肌で感じる、時々そういう時間を持つようにしています。

今、流行っているもので、何十年、何百年後残っているものがどれくらいあるでしょうか。作り手はやがて亡くなりますが、本物だけは人々の手により受け継がれていきます。得てして、物事はあれこれ考え出すと何が正しいのかわからなくなります。自分の内なる物差しが曇って見えにくい時は、本物に触れると視界が開けるから不思議です。「このやり方でいいんだ」と迷いが消えるのです。

 

「本物=師匠に出会えた」という幸運な人もいます。私にも師と慕う人がいましたが、もう会えなくなりました。私たちは不動産や相続対策という、高額な財産に関わる仕事をしています。目先の利益や理屈で動けば、相手はすぐ見抜きます。

自分は本物の仕事が出来ているだろうか、今は自問自答の日々です。こころの内なる物差し、皆さんは何としていますか。考えてみてはいかがでしょうか。