【まごころ通信】 第66話  「AI」と「愛」  by小峰裕子

休みを利用して、携帯電話の機種変更をすることにしました。予約をしたお店に入ると、笑顔のスタッフがカウンターの外に立って迎えてくれます。「おいで頂き、ありがとうございます」。

20代とおぼしき若い男性でした。何と素敵な挨拶でしょう。「ご来店頂きありがとうございます」でも良いのですが、「おいで頂く」という響きに温かさを感じて、うれしくなりました。

人工知能(AI)の時代が進めば、世の中から単純作業が消えてしまうと言います。現象をデータとして数値化できれば、人間が判断するより圧倒的に早く処理できてしまうからです。その範囲は飛躍的に拡大していて、物の区別や手書きの文字まで認識できるそうです。私たちはいたる場所で店員さんのマニュアル化された接客に慣れて久しいのですが、それこそプログラムされたのと同然であり、AIやロボットに移行することもあるのではと考えさせられます。ただAIは理屈では割り切れないことへの対応は苦手です。「気配り」「心配り」、「り」を取ってみればいつの時代も必要とされる人は変わらないと思うのです。「気配から判断する」「心配して差し上げる」。これができる人なら、むしろ相対的に価値は上がり、仕事は増え続けることでしょう。

あるファストフード店では、年長者のマニュアル化されていない接客が評判を呼んでいるのだとか。ベースにあるのはおそらく「気配り」「心配り」。「AI」ではなく、「愛」があるからマニュアルに止まらない態度や言葉が自然と出るのでしょう。不動産業界にしても、データをかき集めて少し気の利いた分析程度なら、もうAIがやってくれています。しかし集めたデータに仮説を立て検証し、伝えるという仕事は残ります。大切なのはお客様に対する「愛」。感謝や愛が伝わらなければ、その仕事はないのと同じです。